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物流現場の熱中症対策、装備配布から物流設計へ

2026年5月14日 (木)

ロジスティクス2026年夏の熱中症対策は、現場の水分補給と空調服の話で済む段階を過ぎた。改正労働安全衛生規則は事業者に異常の発見と重篤化防止の体制整備を求め、改正物流効率化法は、一定規模以上の荷主・連鎖化事業者に荷待ち・荷役時間短縮を含む中長期計画を求める。納品時刻、バース運用、休憩導線、車載冷房、遮熱投資は別々の論点ではなくなる。荷待ち削減は、暑熱曝露の削減でもある。CLO(物流統括管理者)初年度の夏は、熱中症対策を現場任せにするのか、物流設計に組み込むのかを分ける試金石となる。(編集長・赤澤裕介)

気象庁は5月7日、5月9日から6月8日を対象とする1か月予報を発表し、全国的に気温が平年より高い見通しを示した。同日には東北から九州にかけて、時期としては10年に一度程度の高温が見込まれるとして、高温に関する早期天候情報も出された。2月24日発表の暖候期予報は6月から8月、4月21日発表の3か月予報は5月から7月について、いずれも高温傾向を示している。4月10日のエルニーニョ監視速報は、夏にエルニーニョ現象が発生する可能性を70%とし、暖候期予報はその可能性も織り込んだうえで高温見通しを維持する。同庁は4月17日、最高気温40度以上の日の名称を「酷暑日」と決定し、今後の発信で利用するとした。

25年の日本の年平均気温偏差は1991年から2020年の基準値を1.23度上回り、1898年の統計開始以降3番目。夏(6月から8月)に限れば偏差は2.36度で、夏として観測史上1位を更新した。8月5日には群馬県伊勢崎市で41.8度を観測し、国内の歴代1位となった。猛暑日を記録したアメダス地点数は積算で9385地点に達し、2010年以降で最多。日本気象協会が3月25日に発表した「酷暑レポートVol.1」は、同協会独自の予測として、26年の40度以上観測地点数を延べ7から14地点と予想する。直近10年平均は8地点、25年は過去最多の30地点だった。

総務省消防庁が25年10月29日に公表した5月から9月の救急搬送状況は、搬送人員10万510人で2008年の調査開始以降初の10万人超え、過去最多。6月の搬送人員1万7229人は月別過去最多で、前年の2.4倍となった。65歳以上が5万7433人で全体の57.1%、発生場所別では住居が3万8292人で38.1%を占めた。消防庁の搬送統計が社会全体のリスクを示すのに対し、厚生労働省の死傷災害統計は職場で休業4日以上または死亡に至った事案を示す。両者は母集団が異なるが、いずれも25年にリスクが一段上がったことを示している。

職場熱中症は、装備配布だけでは防げない

厚労省が3月19日付の「STOP!熱中症クールワークキャンペーン」で公表した25年職場熱中症の速報値(25年12月末時点)は、休業4日以上の死傷者数1681人で05年の統計開始以降最多、死亡者数は15人だった。業種別では製造業337人、建設業278人、商業221人、運送業201人、警備業186人の順となる。

▲出典:厚生労働省「2025年職場における熱中症による死傷災害の発生状況(25年12月末速報値)」をもとに作成

25年速報値の運送業は201人、死亡1人で、24年確定値の186人を上回る水準となった。確定値と速報値では集計上の補正が生じるため単純比較には注意が必要だが、運送業で熱中症死傷災害が高止まりしていることは明らかだ。25年確定値は例年の公表時期を踏まえれば5月下旬ごろに示される可能性があり、速報値から補正される場合がある。

25年運送業の死亡事案は1件で、50歳代男性が8月午後5時半ごろからタンクローリーで燃料油を地下タンクへ移送中、午後8時ごろガソリンスタンド従業員が確認したところタンクローリー上で倒れていた。気温33.6度、暑さ指数(WBGT、気温に湿度と輻射熱を加味した熱中症リスクの指標)は29.2度の条件だった。停車車両周辺での単独作業、夕方以降の作業継続、WBGT29度台という条件は、トラックドライバーの暑熱リスクを考えるうえで象徴的な事例となる。

陸上貨物運送事業労働災害防止協会(陸災防)が公表する熱中症災害分析では、屋内作業が熱中症災害全体の3分の1を占める点が示されている。「炉や厨房といった特別な熱源がなくても、通風が不十分で高温多湿になるおそれの高い環境下」が倉庫の典型例で、50歳代以上が過去5年の死傷者数の半数超を占める。

25年6月1日に施行された改正労働安全衛生規則第612条の2は、施行後2度目の夏を迎える。WBGT28度以上または気温31度以上の環境下で、継続して1時間以上または1日4時間を超える作業が見込まれる場合、事業者は(1)熱中症のおそれがある作業者を早期発見するための報告体制の整備(2)作業からの離脱や身体冷却など重篤化を防止するための実施手順の作成(3)関係作業者への周知──の3項目が義務化された。

▲出典:環境省「暑さ指数(WBGT)について」と日本生気象学会「日常生活における熱中症予防指針」をもとに作成。職場の作業管理では、作業強度、服装、暑熱順化、休憩条件を踏まえた個別判断が必要となる

違反は労働安全衛生法22条違反として、行為者は6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金、法人も両罰規定により50万円以下の罰金が科される。屋外、屋内を問わず対象となるため、常温倉庫、外気庫、危険品倉庫の作業環境はもとより、低温倉庫の入出庫作業や荷役エリアも作業条件次第で対象に入る。

厚労省が25年5月20日付で発出した基発0520第6号通達は、報告体制の具体例として、2人体制で互いの健康状態を確認するバディ制、ウェアラブルデバイスを用いたリスク管理、双方向定期連絡、職場巡視を例示する。ただし通達は、ウェアラブルデバイスについて「単独では正確に把握できない場合がある」として、他の方法との組み合わせを推奨している。

義務化されたのは空調服や測定器の配布ではない。異常を見つけ、止め、冷やし、必要なら搬送するまでの体制を作ることだ。3PL、倉庫会社、協力会社が混在する現場では、各事業者が自社の作業者について措置義務を負うだけでなく、報告ルート、退避判断、搬送手順を現場全体で共有できるかが実務上の焦点となる。

荷待ち削減は、暑熱曝露の削減でもある

改正物流効率化法は4月1日に全面施行された。指定基準は、前年度取扱貨物重量9万トン以上の特定荷主・特定連鎖化事業者が上位3200社程度、保有車両150台以上の特定貨物自動車運送事業者等が上位720社程度、保管量70万トン以上の特定倉庫業者が上位70社程度。対象となる事業者は5月末までに指定に関する届出を行い、主務大臣による指定を受けた後、初年度の中長期計画を10月末までに、初回の定期報告を27年7月末までに提出する流れとなる。

判断基準上の目標は、ドライバー1人あたり年間125時間の拘束時間短縮、1運行当たりの荷待ち・荷役などの時間2時間以内、1回の受渡しごとの荷待ち・荷役などの時間1時間以内、全体車両の積載効率44%(5割の車両で50%)に置かれる。これらは数値目標であって直接の罰則対象ではなく、達成状況が不十分な場合は調査・公表、指導・助言、勧告、命令の段階措置が想定される。

特定荷主と特定連鎖化事業者にはCLOの選任が義務付けられ、選任しない場合は100万円以下の罰金、選任・解任の届出を怠った場合は20万円以下の過料となる。CLOは「事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者」、すなわち経営幹部からの選任が求められる。CLO制度は労働安全衛生法上の措置義務主体ではない。改正労安衛則の義務主体はあくまで事業者(個々の法人)であり、CLOが熱中症の刑事責任を直接負うわけではない。

ただし、荷待ち時間が長いほどドライバーの暑熱曝露は延びる。庫内作業が集中する時間帯ほど、倉庫作業員のWBGT到達リスクは高まる。納品時刻指定、ピーク時間帯の分散、バース予約システム導入、委託先の作業環境への配慮は、いずれもCLOの中長期計画に書き込める設計領域となる。改正貨物自動車運送事業法(2019年7月施行)が荷主の安全配慮義務として整理した、無理な運行スケジュールや積込直前の貨物量増加なども、安全運行を阻害し得る行為として国交大臣の働きかけ・要請・勧告・公表の対象となり得る。

CLOは労安衛法上の責任主体ではないが、暑熱曝露の削減という形で熱中症対策と接続する実務上の中核となる。日本ロジスティクスシステム協会(JILS)は4月、物流統括管理者連携推進会議(J-CLOP)を発足させ、CLO選任後の運用やCLO同士の交流・情報共有を進める枠組みを示した。

物流倉庫の温熱環境は施設タイプで大きく異なる。冷凍倉庫、低温倉庫、常温倉庫、外気庫、危険品倉庫の温度差が大きいうえ、低温庫から常温エリアへの移動を繰り返すピッキング作業、外気庫での仕分け作業は、いずれも作業強度別WBGT基準の運用を個別設計する必要がある。1階にのみトラックバースを持つボックス型タイプの倉庫では、屋根からの輻射熱と通風の弱さにより上層階の温度が上がりやすいとされる。ESRが20年7月から提供する「ESR環境モニタリングシステム」は、フロアごとに温湿度センサーを設置して15分間隔でWBGTを算出し、5段階で表示する庫内モニタリングの先行事例となっている。

トラックキャブ内の温度上昇も避けられない。日本自動車連盟(JAF)が23年8月に実施したユーザーテストでは、外気31度台の条件下でエンジン停止・エアコン停止の送迎用バスとミニバンはいずれも1時間で車内温度が40度を超え、最終的に48度、ダッシュボードは57.8度まで上昇した。WBGTは41分後に危険レベルに達している。乗用車・送迎車両の実験ではあるが、荷待ち中にエンジン停止を求められるドライバーのリスクを考える参考データとなる。

都条例などのアイドリングストップ規制と荷主構内でのエンジン停止要請のもと、荷待ち中や仮眠中のドライバーは選択肢が限られる。全日本トラック協会の令和8年度助成事業では、休憩・荷待ち時などのエンジン停止時に使用できるエアヒーター、車載バッテリー式冷房装置を対象に、機器取得価格の2分の1以内、上限6万円を助成する。都道府県トラック協会によって対象機器や助成額が異なる場合があり、申請時には所属協会の要綱確認が必要となる。荷主構内でエンジン停止を求めるなら、待機環境・予約制・休憩導線を整える側の責任も問われる。

24年以降に各社が打ち出した対策は、装備品の配布から運用・施設の改造へと広がりつつある。各社発表や公表資料で確認できた事例を対策分類別に整理すると以下のようになる。

ヤマトホールディングスが25年5月27日に公表したファン付きベスト7万5000着は、ファン取付位置を背面から側面に7センチずらした改良仕様で、運転動作を妨げない設計となっている。同社はWBGT測定器3000台を全国事業所に設置し、ミツフジ製の生体センシングデバイス「hamon band S」2500台を一部営業所のドライバー・作業職に導入して深部体温の変化を推定する仕組みも組み合わせる。

アサヒロジは25年9月に空調服1300着を配布、名正運輸は同年7月に全営業所の倉庫作業員・ドライバー対象に空調服を導入した。日本郵便は25年6月、クールファンベスト、ネッククーラー、サングラスの着用許可に加え、集配作業中のコンビニ休憩・水分補給を制度として認めている。

Hacobuによれば「MOVO Berth」の利用事業所数は26年2月末時点で4万1000以上に達した。同社はこの数字について導入拠点数にMOVOを利用する事業所IDを加えたものと説明している。登録ドライバーIDは25年12月時点で80万を超えた。バース予約システムの普及は荷待ち時間の削減を通じて暑熱曝露を直接減らす効果を持つ。施設改造と制度設計については、本特集の倉庫編、荷主CLO編、投資収益編で検証する。

燃料油価格は中東情勢を受けた緊急的激変緩和措置で抑制されているが、物流事業者にとって燃料・電力コストの上昇圧力は残る。車載冷房、倉庫空調、遮熱施工、バース予約、休憩導線整備は、いずれも安全対策であると同時に投資判断でもある。酷暑下では、燃料節約のためのアイドリングストップと、ドライバーの生命安全をどう両立させるかが荷主構内の運用課題となる。

帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査」(25年1月時点)では、「運輸・倉庫」の正社員人手不足割合は66.4%に達した。装備品を配るだけでは、離職と労災のリスクを十分に下げられない。どこに投資するかを、コストと労災・離職リスクの比較で組み直す段階に入る。熱中症対策は安全衛生予算の話ではなく、人手不足下の継続稼働を可能にする投資判断となる。

厚労省、陸災防、全ト協の安全衛生資料は整備されつつある。しかし、荷主CLO、3PL、倉庫、運送会社を横断し、荷待ち時間、庫内WBGT、委託先管理、納品時間指定、投資判断を一体で扱う実務標準はまだ見えにくい。荷主から見れば、装備配布、環境測定、身体リスク検知、施設改造、運用改善、制度設計を一体の対策パッケージとして組める事業者かどうかは、取引先評価の論点として浮上する。

2026年夏の熱中症対策は、現場の装備配布では終わらない。問われるのは、WBGTだけでなく「暑熱曝露時間」を物流KPIとして短縮できるかだ。荷待ちを減らすこと、庫内作業を分散すること、休憩導線を確保すること、車載冷房や遮熱に投資することを、同じ物流設計の中に置けるかが問われる。CLO初年度の夏は、その分岐点になる。

本誌は18日から、本特集を配信する。

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