
▲中東情勢に関する関係閣僚会議。(左から)赤澤亮正経済産業相、高市早苗首相(出所:首相官邸:https://www.kantei.go.jp/jp/105/actions/202606/11kaigi_middle-east.html)
行政・団体ホルムズ海峡を経由しない原油調達が、7月に前年平月比10割へ届く見通しになった。政府が6月11日に開いた第10回中東情勢に関する関係閣僚会議で、高市早苗首相は7月分の調達が日量240万バレル規模に達し、必要となる日量224万バレルを上回ると説明した。国家備蓄の追加放出は2か月連続で見送り、8月以降の調達が前年平月比75%にとどまる保守的な前提でも、2028年3月末まで石油の安定供給が可能になったという。一方で会議の議題は原油の量にとどまらなかった。首相は赤澤亮正経済産業相に対し、価格やサプライチェーン各層の在庫状況など流通実態の変化を確認するよう指示した。潤滑油、シンナー、建材、食品包装、医療資材で相談や個別案件の把握が続いており、原油の数量不安が後退しても、必要な製品が必要な時期と量で川下へ届き、そのコストを誰が負担するのかという課題が残っている。(編集長・赤澤裕介)
潤滑油79件、川下調達に不安
経産省によると、キーワード集計による直近1週間(6月1日-7日)の相談件数は潤滑油が79件と、シンナー・塗料の20件、燃料油の12件を大きく上回った。燃料油は4月9日に直接販売の仕組みが始まって以降、相談の解消が進んだ。潤滑油は前の週の102件から減ったものの、燃料油やシンナー・塗料を上回る件数が残る。国土交通省によると、自動車整備、バス、トラック、タクシー事業に関する直近1週間の相談分類では、エンジンオイルが37件で、軽油とアドブルーはいずれも0件だった。少なくとも交通・整備関係の相談では、軽油よりもエンジンオイルが目立つ。
政府は6月10日、全業種を対象に主要潤滑油メーカーが需要家へ直接販売する仕組みを始めた。前年同月比で同量の販売を基本に、事業継続に必要な量を確保できていない事業者へ届ける内容で、燃料油の直販の枠組みを数千品目に及ぶ潤滑油へ広げた。高市首相は会議で、自動車整備工場やバス・トラック・タクシー事業者から、4月はシンナーが入手困難だったが最近は少し改善した、との声が届いていると紹介した。燃料があっても、エンジンオイルや作動油が不足すれば整備や稼働に支障が出る。シンナーの滞りも補修や塗装を遅らせる。燃料油で始まった直販は、物流・交通の稼働を支える油脂類にも広がった。
川下の事例からは、調達不安が単純な欠品だけで生じていないことも分かる。農林水産省によると、パン・菓子の販売店から把握した「目詰まり」19件のうち7件が解消し、3件は代替品の活用などで対応済みとなった。解消事例の多くは、商社の側で6月から通常の納品が可能になっていたのにその情報が販売店へ伝わっておらず、供給不安から販売の継続が危ぶまれたというものだった。建設・住宅資材でも、ユニットバスや塩ビ管、断熱材、接着剤、シンナーで調達が難しいという声がある一方、数量に制限はあるが調達できている例、納期は通常より長いが調達できている例、必要な時期と数量を具体的に示せば入荷できる例が混在していると国土交通省は報告している。現場では、絶対量の不足に加え、納期の長期化、数量の制限、供給見通しの伝達不足、先行発注が重なり、川下の調達判断を難しくしている。同じ調達不安は食品包装や医療資材にも及ぶ。厚生労働省によると、医療分野の直近1週間の相談は調剤用の分包紙・容器が570件と手袋類の162件を上回っており、在庫切れのおそれのある薬局へ分包紙を優先供給する仕組みが整えられた。
流通段階への働きかけとして、新しい手法も示された。塗料・シンナーについて、例年並みの調達・供給や在庫の融通、関係者との丁寧な情報共有に取り組む業界団体と企業の名前を、経済産業省がホームページで公表する。政府が「目詰まり・偏り解消協力団体・企業」と呼ぶこの公表の対象には、最終需要家に必要な製品が届くよう供給の偏りの解消に取り組むことが要件として挙げられている。供給の上流では、トルエンやキシレンの供給を例年の需要の1.8倍まで増やせる仕組みの契約が進み、早ければ6月18日に原料が届いてシンナーの増産が始まる見通しになった。
原油7月10割、価格転嫁に課題
原油調達は、ホルムズ海峡を経由しない調達率が4月の25%(日量59万バレル)から5月に65%(同153万バレル)、6月は8割程度(同190万バレル規模)へ高まってきた。米国からは前年平月比で10倍以上を調達できる見通しで、先週にはアラスカ産が初めて到着した。カナダからの輸入が新たに決まり、7月にはメキシコ産が初めて届く予定だという。備蓄の取り崩しは5月の1か月間で5日分にとどまり、200日分規模の水準を保っている。

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ただし「7月10割」は、6月8日時点の契約と配船の見通しを含む数字で、着荷した実績ではない。経産省も、タンカーの配船や運航状況によって日本着が後ろ倒しになれば、月ごとの調達量に変動が生じ得ると注記している。4月の25%は製油所に到達した実績、5月以降は調達分や見通しを含むため、各月の数字は同じ精度で並べられない。船舶追跡データで確認できているのは5月分までで、ブルームバーグは5月の日本の原油輸入を日量170万バレルほど、前年同月の4分の3の水準と報じた。28年3月末までの安定供給という説明も、これまでの備蓄放出と今後の代替調達を組み合わせた全体の見通しとして読む必要がある。
会議で具体的に示されなかったのは、遠隔地からの調達に伴うコストの内訳だ。石油連盟の木藤俊一会長は5月20日の会見で、平時にはかけられないコストをかけて代替調達を進めていると述べ、「企業努力だけで吸収できるものではない」として価格転嫁に理解を求めた。価格情報会社アーガスの算定では、米国ガルフから日本への原油輸送運賃は3月初旬時点で1バレル当たり9.97ドルに達し、届け値ベースで中東産ドバイ原油より10ドルほど高い。ロイズ保険市場の合同戦争委員会が3月に湾岸を高リスク海域に指定したことで、戦争リスク保険料は船体価値の0.125-0.25%から1.0‐3.0%へ上昇した。日本経済新聞は5月中旬、中東産原油の半数がアジア海域での洋上積み替えを経て日本に届いていると報じている。
この調達コストが店頭価格に及ぶのを抑えているのが燃料補助金で、経済産業省によると軽油の全国平均小売価格は6月8日時点で1リットル158.5円となっている。補助の単価は5月14日の42.6円をピークに縮小が続き、6月11日からはガソリン、軽油、灯油、重油が1リットル27.0円となった。既存基金と予備費を合わせた財源1兆800億円について、野村総合研究所の木内登英氏は3月下旬の時点で、標準シナリオなら7月初旬に使い果たされると試算している。ただ、政府は補正予算で中東情勢等対応予備費2兆5000億円を計上しており、財源が直ちに尽きるという意味ではない。補助単価は縮小が続く。補助で抑えてきた調達コストが、軽油価格や運賃交渉に表れやすくなる。荷動きが弱い時期には、燃料費や油脂類の値上がりを運賃へ転嫁する交渉も進みにくい。日本ローカルネットワークシステム協同組合連合会がまとめた5月の全国取引高は前年同月比7.8%減で、貨物量の落ち込みが運送事業者の価格交渉を難しくしている。
調達量の回復は、燃料費と油脂類の調達負担を消すものではない。補助の縮小と荷動きの鈍さが重なれば、運送事業者は、燃料費を運賃へ織り込む契約改定や荷主交渉を迫られる。7月分の実績が貿易統計で確認できるのは8月以降になる。調達量だけでなく、軽油価格、補助単価、潤滑油の相談件数、直販の利用状況、川下事業者の納期と価格改定の進み方を合わせて見なければ、物流現場への影響は判断できない。
◆ この記事をより深く理解するために ◆
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