行政・団体公正取引委員会は6月17日、荷主と物流事業者の取引、製造委託の代金支払を規律する独占禁止法上の2つの告示を確定し、公表した。改正物流特殊指定と新設の支払告示で、いずれも2027年4月1日に施行する。3月に公表した原案を技術的な修正にとどめ、規制の骨格を維持した。企業は様子見の段階を終え、施行までの9カ月余りで物流と支払の取引条件を点検する段階に入る。
公取委は3月12日、サプライチェーン全体の価格転嫁、支払条件の適正化、物流の商慣習是正を目的に4案を公表した。4月13日を期限に意見を募り、66件が寄せられた。4月14日には2つの告示案について公聴会を開いている。これらを踏まえて原案に修正を加え、確定したのが今回の告示となる。確定段階で原案の骨格が維持されたことで、企業にとっては制度の中身を見極める段階から、自社の取引をどう合わせるかを詰める段階へと移る。
着荷主規制の追加
改正物流特殊指定は、これまで運送、保管を委託する荷主を対象としてきたが、新たに荷物の引渡しを受ける着荷主の行為を規制対象に加えた。納品を受ける小売業者や製造業者などが、運送以外の役務や経済上の利益を提供させたり、運送内容の変更、やり直しをさせたりして発荷主の利益を不当に害する行為を禁じる。発荷主とは、その着荷主に商品を納める供給側の事業者を指す。運送、保管費用の変動が生じた際に物流事業者からの価格協議に応じず、一方的に代金を決める行為も不公正な取引方法として明記した。
これまで物流の取引適正化は、運送を発注する荷主と運送事業者の関係を中心に議論されてきた。今回の改正は、納品先の都合で生じる荷待ちや無償の荷役といった、契約の当事者でない着荷主が起点となる負担に踏み込む。現場で長時間の荷待ちや無償の附帯作業が生じる場面では、運送を発注した荷主ではなく、荷物を受け取る側の都合が原因になることが少なくない。告示名が当初の「委託する場合の」から「委託する場合等の」に変わったのは、この着荷主規制を取り込んだためだ。
製造委託代金の60日上限
支払告示は、製造委託などを受けた事業者への代金を、給付の受領日から60日を超えて支払わない行為を不公正な取引方法として指定した。役務提供委託、特定運送委託の場合は役務提供を受けた日が起点となる。正当な理由がある場合は除く。
支払告示は中小受託取引適正化法(取適法)と異なり、資本金などの規模要件を設けていない。大企業同士の取引でも、受託側の取引上の地位が委託側に劣ると認められれば対象になり得る。取適法が規模要件を満たす事業者間を対象とするのに対し、支払告示は規模の枠外でも、代金を支払う側という立場を背景に支払繰り延べの負担が押し付けられやすい取引に網をかける。委託事業者に対して取引上の地位が劣る側が広く保護対象に入るため、製造や加工を外部に委託する企業は、相手の規模にかかわらず支払条件を点検する必要がある。公取委は今後、両告示の普及啓発を進め、施行に向けた準備を促す。
荷役荷待ち費用、契約記録が焦点
改正物流特殊指定と支払告示は、制度の骨格こそ3月の原案から変わっていない。66件の意見への回答と公聴会の議論には、条文に書かれていない運用上の解釈が数多く盛り込まれた。どの行為が問題となり、どの行為は問題とならないのか、現場の判断に直結する線引きがここで具体化している。施行日が2027年4月1日に固まったいま、着荷主、発荷主、物流事業者が点検すべき点は、この回答群にある。(編集長・赤澤裕介)
荷待ち附帯作業の費用負担
公取委は、運送以外の役務として荷積み、荷下ろし、倉庫内作業などの附帯業務を例示した。これらをさせる場合は、内容や対価について十分に協議し、書面やメールなど記録に残る方法で明確化することが望ましいとの考え方を示している。無償の荷役をさせないだけでなく、誰が何をどの対価で行うかを契約と記録に落とし込むことが、取引のたびに求められる。口頭の慣行で続けてきた附帯作業ほど、施行前に文書化が要る。
荷待ちや運送変更が着荷主の責めに帰すべき理由に当たるかは個別判断としつつ、公取委は具体例を並べた。問題性は、発荷主側や運送事業者側に理由があるか、着荷主側の事情による変更ややり直しか、費用や損失を着荷主が速やかに負担しているかで判断される。
前者は、着荷主側の事情による待機や変更とみられやすく、費用や損失を着荷主が負担しなければ問題となり得る。後者は、発荷主側や運送事業者側に理由があるため、通常は着荷主の責めに帰すべき理由には当たりにくい。
時間に関わる行為にも判断が示された。公取委は、取り決めた到着時刻・時間帯より遅れて運送事業者が到着する場合や、納品物が発注内容に適合しない場合は、発荷主側や運送事業者側に理由がある例として挙げた。一方、納品場所の作業工程の遅れや混雑で荷下ろしできない場合は、発荷主側等に理由があるとはいえない例とした。着荷主が指定時間に配達された商品を受け取らず、保管期限を過ぎて発荷主に返送された後に再び納品を依頼すれば、不当な運送のやり直しとして問題となり得る。取り決めたリードタイムを着荷主が一方的に前倒しして運送内容を変更させ、発荷主の利益を不当に害する場合も、不当な運送内容の変更に当たる。納品依頼の取消し、納品日時、場所の変更、荷待ち、再配達は、いずれも運送内容の変更、運送のやり直しの説明の中に位置づけられた。着荷主がパレットやカゴ台車での納品を指示しながら、レンタル料や回収費用の負担に応じない行為も、不当な経済上の利益の提供要請として問題となり得る。
誰が指示したかも結論を左右する。着荷主規制は、着荷主が発荷主を通じて運送事業者に行為をさせる場合を対象とするため、着荷主の関与が一切ないまま運送事業者が独断で附帯作業を行った場合は対象外となる。一方で着荷主が発荷主に直接要請する場合も、運送事業者を介して要請する場合も含み、運送を受託する事業者には二次請け以降も入る。引渡しを受ける相手には3PL事業者や倉庫業者、顧客なども含まれ、着荷主が3PLの施設を納品場所に指定しながら引渡条件を明確にせず、契約にない荷下ろしを運送事業者に負わせれば、提供要請に該当するおそれがある。二次請け以降の運送事業者も含まれるため、委託先を介した構造であっても、着荷主が直ちに責任を免れるわけではない。委託倉庫や納品代行に任せきりにしている着荷主ほど、自社が起点になっていないかの確認が要る。
支払告示上の手形対象外
支払告示の側では、取適法との違いが回答で浮かび上がった。公取委は支払告示について、手形払いは支払告示上は問題とならないと明言している。約束手形は26年度末での利用廃止に向けた取り組みが進んでおり、施行日との関係で手形払いの定めを置く必要性は高くないと判断した。公聴会では学識者から、手形や電子記録債権で60日以内の支払を回避する行為を禁止すべきだとの要望が出たが、これを退けた。今年1月に施行された取適法では対象取引で手形払いが一律に認められないのとは対照的で、確定段階の回答で公取委が明言した違いとなる。電子記録債権やファクタリングは、60日以内に金融機関から支払を受けられる状態にすれば、満期や決済期日が60日を超えても支払告示上は直ちに問題としない。一方、公取委はサイトの長い支払手段の使用を今後注視するとした。
適用の範囲も整理された。支払告示は資本金や従業員数の規模要件を設けず、大企業同士の取引でも、受託側の取引上の地位が委託側に劣ると認められれば対象になり得る。取適法のような年14.6%の遅延利息の規定はなく、国や地方公共団体は別の法律で義務が課されているため適用除外となる。商社などの単純な仕入販売は製造委託に当たらず対象外で、対象は製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託などに限られる。
60日の起点となる受領日は、取引の形態によって変わる。通常の取引では物品を受け取った日が起点だが、預託在庫や締切制度を使う場合は扱いが異なる。
60日を超える支払の正当な理由は、限定的に解されている。従来の契約慣行、商慣習、事務手続上の都合、投資回収期間の長さは、いずれも単独では直ちに正当な理由とは認められにくい。受託事業者の資金調達コストを踏まえて代金額を定める場合は合理的な理由に当たる。預託在庫を抱える製造業や小売業は、所有権移転をいつ、どう書面に残すかで起点が動くため、契約文言の見直しが要る。
公取委が寄せられた要望をどこで退けたかにも、規制方針が表れている。物流特殊指定に「正当な理由なく」と明記する要望、報復措置の対象への運送事業者の追加、支払告示の単純売買への拡大、施行までの移行期間や既存契約への猶予、支払告示への規模要件導入は、いずれも採用されなかった。改正物流特殊指定の備考にあった役務提供委託の除外規定は削除され、取適法の対象となる役務提供委託や特定運送委託も適用対象に含まれることになった。あわせて改定された優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方では、対価の一方的決定の想定例から当日発注、当日納品のような短納期発注の例示部分が削除され、生産コストなどには物流コストも含まれ得るとの考え方が示された。価格転嫁の議論で物流費が明示的に位置づけられたことになる。
両告示とも、施行日以降にされた取引に適用される。企業には残りの期間で、荷役、荷待ち、再配達の費用負担を契約と記録にどう落とし込むか、支払サイトをどう短縮するかという作業が残る。
◆ この記事をより深く理解するために ◆
着荷主規制を導入へ、契約外の荷待ち・荷役にメス(26年3月11日) – 企業取引研究会段階で示された着荷主規制の制度設計と、今回確定した改正物流特殊指定の前提を確認できる。
無償の荷待ち・荷役は解消されるのか(26年3月25日) – 着荷主と運送事業者に直接契約がない場面をどう規制するか、契約外作業や荷待ちの論点をQ&Aで補える。
公取委武田氏、回答保留繰り返しに違反リスク指摘(26年3月26日) – 価格協議の形骸化、発注書面、附帯業務の記載など、今回の解説部分と直結する論点を押さえられる。
運賃転嫁の明暗、取適法と標準的運賃の実務(26年3月1日) – 取適法、標準的運賃、価格協議の関係を整理しており、改正物流特殊指定が運賃転嫁にどう接続するかを理解しやすい。
サイト短縮で赤字は止まる、荷主の出番(26年3月23日) – 支払サイト短縮が運送事業者の資金繰りに与える影響を示しており、支払告示の60日ルールを資金面から読める。
取適法違反指導8261件、物流取引も監視強化(26年6月10日) – 公取委の執行状況と物流分野の監視強化を押さえることで、今回の告示が単独の制度改正ではなく取引適正化の流れにあることが分かる。
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