話題物流2024年問題、そして特定荷主に対して中長期計画の策定を義務付ける物流新法への対応――。荷主企業にはサプライチェーン全体を見据えたドライバーの拘束時間削減、輸送の効率化、そして脱炭素に向けたCO2削減の具体的な実行が迫られている。
だが、多くの荷主が突き当たるのが「現場の実態が見えない」という高い壁だ。国内有数の自動車部品メーカーであり、自社で配送管理システム「BRIDGES@ny」(ブリッジスエニー)を開発・外販する自動車部品大手のアイシンも、その例外ではない。特定荷主でもある同社は、いかにして自社の物流課題に向き合い、改善を重ねたのかを取材した。
「遅れてから初めて気づく」体制からの脱却
「配送に計画外の遅延が生じても発生後にしか把握できず、対応が完全に後手に回る体制となっていた」
そう語るのはアイシン、物流技術Gの中川哲也氏だ。同社が荷主として抱えていたのは、大きく3つの課題。1点目は、まさにこのリアルタイムな配送状況の把握難だ。異常が発生しても連絡網による電話リレー頼みとなり、後工程へのリカバリーが遅れがちになっていた。

▲アイシン、生産・物流改革部の中川哲也氏
2点目は、配送ダイヤの根拠の希薄さである。
「輸配送を担う協力会社に区間の走行時間や荷役時間を指定したいが、根拠を持って提示できていなかった。公平・公正な取引条件を提示したくても、対外的に説得力のある共通指標が社内に無い状態だった」(中川氏)
物流関連法の整備により、荷主にはドライバーの拘束時間削減など適正な取引条件の整備が強く求められている。これら法令対応を確実に遂行し、持続可能な物流を実現するためには、感覚的な判断ではなく、データに基づいた公平な指標が不可欠であった。
そして3点目が、法令対応に伴う膨大な集計工数だ。
「アイシンは省エネ法上の『特定荷主』に該当するため、CO2排出量やエネルギー消費量の算定・報告が国への定期報告として義務付けられている。これまでは人力で集計していたが、物流新法による中長期計画の策定業務も加わり、従来のやり方では立ち行かなくなっていた」(中川氏)
こうした3つの構造的課題を根本から打破するため、同社は動態管理システムの本格導入を検討し始めた。
32年のカーナビ技術がもたらす『トラック専用の走行予測』
世の中に数多くのTMSや動態管理ツールが存在するなかで、アイシンが自社製品である「BRIDGES@ny」を選定した理由は明白だ。「一般的な動態管理サービスでは、予実の記録はできても、その計画の妥当さまでは判断できない。BRIDGES@nyは、客観的な走行予測値を提示できるので、現場が納得感を持って改善に取り組める」(中川氏)

▲現在の配送からBRIDGES@nyで新たに計画を立てることで、配送時間の削減が可能(出所:アイシン)
一般的な動態管理サービスが、計画に対して実績が何分だったかという記録にとどまるのに対し、BRIDGES@nyは、過去の膨大な走行データに基づき、車格、時間帯・天候を加味して本来何分で走れるのかという客観的な予測値を提示できる点にある。配送の記録だけではなく、計画そのものが妥当かどうかを客観的に評価できる物差しを備えていることこそが、アイシンの現場が求めていた本質的な機能であった。
配送時間の現実、確かな数字こそが輸送会社との「共通言語」に
現在、同社では配車機能を中川氏の部署に集約し、およそ100台のトラックを皮切りにBRIDGES@nyの運用を進めている。
同サービスを開発・推進するアイシン、ビジネス戦略グループの松浦奈津子氏は、「BRIDGES@nyの最大の強みは『予実分析』」と強調する。
高精度なナビ機能もさることながら、同サービスの核心は「計画と実績の乖離をリアルかつ精緻に可視化できる」点にある。1-2か月といった中長期スパンでデータを蓄積することで、「走行時間」「時間調整」「コンビニ立ち寄り」「拠点での荷待ち・荷役」といった極めて細かい行動単位にまで実績を分解し、比較・分析が可能となる。従来、人間が過去の経験や感覚で立てていた計画を高精度の予測値と突き合わせることで、立案された計画自体が適正かを客観的に検証できる基盤が整った。

▲アイシン、新事業創出部の松浦奈津子氏
対象経路を可視化して間もなく、計画のほうが実績より最大20%も長くなってしまっていた便があったことが判明した。また、計画段階で過剰なバッファが設定されていたため、ドライバーは予定よりも大幅に早く目的地付近へ到着してしまうケースが多いことも判明。その結果、工場外のコンビニなどで時間調整を行ったり、荷役完了後もダイヤ通りの時間になるまで待機するなど、無駄な滞留時間が発生していたのだ。
従来のアナログな管理やデジタコの単純集計では、「計画通りの配送」と見過ごされていた配送が、実は極めて非効率な運用であったことが判明したのである。
こうして得られたファクトデータは、運送パートナーとの協議の場を劇的に変えた。
「以前はダイヤの見直しを相談しても、感覚的な意見のぶつかり合いになり、平行線をたどることもあった。しかし今は、同じ画面とデータを見ながら冷静に議論ができるため交渉の手間や心理的摩擦が劇的に減った」(中川氏)
客観的なデータが荷主と輸送会社を分断する壁を取り払い、建設的な改善を進めるための強固な「共通言語」となったのだ。「計画立案 → 実績計測 → 乖離の分析・改善 → 再び高精度な計画へ」というPDCAサイクルを循環させることで、配送計画の精度は着実に研ぎ澄まされている。

▲BRIDGES@nyの主な機能(出所:アイシン)
画面に張り付かない「遅延事前検知」とドライバーに優しいUI
どれほど高機能なシステムであっても、現場の運用負荷が高ければ定着しない。
松浦氏は「ドライバーはスマートフォンを携行するだけで、出発とゴール以外の画面操作は一切不要。拠点の敷地に『ジオフェンス(仮想の地理的境界線)』を設定しており、エリアへの出入りを自動検知して発着を判定。現場に追加入力を強いることなく、高精度な滞在ログが残る仕組み」と説明する。

▲リアルタイムの渋滞データと過去の混雑傾向の統計データを組み合わせた遅延予測で、精度の高い到着予定時刻を事前に把握。荷主・輸送会社間で共有し、異常対応をスムーズにする(出所:アイシン)
また、運行管理者の業務スタイルも一変した。
「目的地までの道路状況をシステムが常時監視し、遅延が見込まれたら即座に担当者へアラートメールが届く。管理者は常時画面を監視し続ける必要がなく、輸送会社も同じ画面をリアルタイムに共有できるため、異常が発生した際の初動対応が格段に早くなった」(中川氏)
省エネ法・物流新法への対応、そして「輸送費・CO2半減」へ
現在100台弱で進むアイシン社内での導入は、今年度中に300台、最終的には700台規模へと順次拡大される計画だ。全社に展開、単なる業務効率化を進めた後には、サプライチェーン全体の抜本的な変革を目指す。
「実走行距離に基づいた精緻なエネルギー消費量を自動で算出できるため、特定荷主としての定期報告業務は大幅に効率化される。正確なCO2排出量を把握した上で、ダイヤの適正化や複数経路の集約を進め、より少ない台数で配送を回していく。最終的には輸送費とCO2排出量の半減という全社目標の達成を目指す」(中川氏)

▲荷主が直面する現場の課題(出所:アイシン)
自社が荷主として直面した痛みと、それをデータで解決してきた確かな実績。アイシンの現場改革のリアリティを宿したBRIDGES@nyは、感覚頼みの物流から脱却し、荷主と輸送会社が手を取り合って持続可能な輸送を築くための強力な架け橋となりそうだ。




































