M&A物流・倉庫業が抱える「含み益」を狙ったファンドの攻勢が続いている。米ダルトン・インベストメンツと英ニッポン・アクティブ・バリュー・ファンド(NAVF)などの連合が、安田倉庫の株式5.17%を取得したことが、9月9日提出の大量保有報告書で明らかになった。保有目的には「非公開化やスピンオフを含む経営戦略オプションの検証」との文言が並ぶ。今年3月末時点では明治安田生命と東京建物がともに5.53%を保有し筆頭株主を務めており、今回の連合の保有割合はこれに匹敵する規模だ。株価は報告書公表後に年初来高値を更新し、その後も高値圏で推移している。安田倉庫は最新の一例にすぎず、この流れは今後も続くとみられる。(編集委員・刈屋大輔)
実物資産の値段と株価との乖離
物流・倉庫業には、ファンドが含み益を見出しやすい共通の特徴がある。トラックや倉庫、物流拠点といった実物資産を長期に保有し続けてきた業態が多く、貸借対照表上の簿価と実勢価値の乖離が生じやすい。創業家や取引先との持ち合いによる安定株主構造が長く続いてきた一方、東証が2023年に打ち出した資本コスト・株価を意識した経営要請を機に、その持ち合いは解消局面に入りつつある。
時価総額が比較的小さい企業もあり、少ない投資額で存在感のある持ち分を確保できる点も、ファンドにとって参入障壁を下げている条件のひとつだろう。ここで測られているのは、PBRという指標そのものではなく、実物資産の値段と株価がどれだけ離れているかという一点だろう。
積み重なる先例の着地点
物流業界での攻勢は、安田倉庫が初めてではない。倉庫業では三井倉庫ホールディングスに、シンガポールの3Dインベストメント・パートナーズが25年4月に5.07%を取得して以降買い増しを続け、同年9月には11.15%まで積み上げている。参入当初のPBRは1倍を上回っていたとみられ、PBR1倍割れが参入の絶対条件というわけでもなさそうだ。
陸運業ではセンコーグループホールディングスに対し、ダルトン連合が24年11月頃から対話を始め、非コア事業への資本配分やガバナンス上の問題を指摘してきた。25年9月には取締役候補者を推薦したが会社側は選任せず、26年4月には取締役選任と定款変更を求める株主提案に踏み切ったものの、6月25日の株主総会では賛成少数で否決され、対話は膠着している。
トランコムでは関連ファンド合計の保有比率が18.09%まで積み増された末、24年9月に米ベインキャピタルとのMBOによる非公開化が発表され、すでに上場廃止に至った。
対話継続、株主提案の否決、非公開化。結末の濃淡は異なるが、いずれもファンドが物流企業の実物資産に目を付けた点は共通している。安田倉庫は、この列に加わった最新の事例にすぎない。
終わらない値踏み
安田倉庫がほかと異なるのは、外圧を受ける前から自ら資産圧縮に動いていた時系列にある。買収防衛策は今年6月の株主総会をもって継続せず廃止することを5月8日付で決議し、同じ月にヒューリック株310万8千株の売却も発表、保有株数は26年3月末時点の2743万株から足元で2432万株程度まで減っている。自己株式取得も上限10億円の枠に対し2月の決議からわずか5カ月で消化し、当初予定より半年以上前倒しで7月末に取得を終えた。
時系列を並べれば、ダルトン連合の参入は結果であって、引き金ではない。資本政策の転換はすでに走り出していた。それでも実績PBRは0.74倍にとどまり、ファンドの接近を防ぐには至っていない。
KKR傘下のロジスティード(旧日立物流)は2024年、アルプス物流をTOBで完全子会社化し上場廃止に導いている。完全子会社化と株主提案は手法としてまったく別物だが、狙いの芯は重なる。物流企業が長年抱え込んできた不動産や拠点網に、資本の側が値段をつけ直そうとしている。
陸運業に目を移せば、上場企業の半数近くがPBR1倍を割り込んでおり、倉庫業以上に構造的な割安さを抱える。持ち合い解消はまだ道半ばで、東証の資本コスト要請も継続中である以上、含み益を狙った攻勢が安田倉庫で終わる公算は小さい。
資本政策の主導権を自ら握るのか、外部資本の介入を待って動くのか。その判断の差が、次にどの企業の名前が大量保有報告書に載るかを分けることになるだろう。
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