ロジスティクス米国で関税還付が始まった。規模は1660億ドル、日本円で25兆円に達する。だが、これで輸入コストが下がるわけではない。戻るのは関税の一部だけだ。残りは消えていない。(編集長・赤澤裕介)
還付開始の報道だけを見ると、関税が消えたように見える。だが違う。関税は消えていない。還付金も、実際に負担した側に戻るとは限らない。物流価格も、これでは動かない。
消えるのは4種類のうち1種類
米税関国境警備局は4月20日、IEEPA(国際緊急経済権限法)関税の還付処理システムを稼働させた。対象は33万社、5300万件の輸入申告。還付総額1660億ドルのうち82%は自動処理で、60-90日以内に利息付きで支払われる。
還付の対象はIEEPA関税のみだ。米国が輸入品に課している関税は大きく分けて4種類あり、今回戻るのは1種類にとどまる。言い換えると、1つの輸入申告に複数の関税が重ねてかかっており、そのうちの1つだけが削除される仕組みだ。
還付処理システムは、輸入申告上の分類番号のうち、IEEPAに該当する行だけを削除する設計になっている。同じ申告に記載された他の関税はそのまま残る。
最高裁判決の直後、米政権は通商法122条に基づく一律10%の代替関税を発動した。7月24日までの時限措置だが、消えたIEEPA関税の水準を別名目で補てんする位置づけになっている。1種類が消えても、他の関税は残る。平均的には輸入コストは大きく下がらない。
2つ目の見誤りは、還付金の受取先だ。還付金は、実際に負担した側ではなく、輸入申告上の輸入者に支払われる。このずれが実務上の争点になる。
典型はDDP取引、つまり日本側の売り手が関税込みの価格で米国に商品を売る契約だ。DDPでは、価格を負担する側と輸入者名義がずれる。日本側が実質的に関税を負担していても、還付の受取先は米国側になる。契約書に還付金配分の事前条項がなければ、事後交渉が必要になる。
こうした不確実性に備え、還付に備えた動きはすでに出ていた。2025年12月には、日系9社が米国企業1000社超とともに米国際貿易裁判所に提訴している。
物流価格、還付では動かず
海運・航空・港湾の主要指標では、還付開始が価格シグナルになった形跡は乏しい。動かしているのは別の要因だ。
海運市場では、還付開始よりも船腹過剰への対応が価格を左右している。海運コンテナ指数のドリューリー・ワールド・コンテナ・インデックスは4月16日時点で40フィートコンテナあたり2246ドル、前週比3%減となった。6週連続の上昇が止まっている。17-21週の期間では主要航路で59便の欠便が予定され、キャンセル率は9%、トランスパシフィック東航ではその比重が54%に達する。
航空貨物でも、還付開始が運賃を動かした形跡は乏しい。バルチック航空貨物指数(BAI)は中東空域閉鎖を背景に前週比5.1%上昇した。港湾でも、取扱量は還付ではなく前倒し輸入の反動に左右されている。米ロサンゼルス港は1月に前年同月比12%減、3月に同3%減と推移した。還付開始ではなく、船腹過剰への対応と前倒し輸入の反動、そして中東情勢が市場を動かしている。
還付額の大きさに目を奪われると、実務を誤る。見るべきは戻る金額ではなく、残る関税と次の期限だ。7月24日には通商法122条が失効し、その前後で301条の再強化が次の焦点になる。米税関は4月28日に還付処理の進捗を米国際貿易裁判所に報告する見通しで、これが最初の確認点になる。
◆ この記事をより深く理解するために ◆
・本稿で扱う還付手続きの起点となった違法判決の全体像。
「米最高裁が関税違法判決、供給網の再構築必至」
・今回運用開始した還付手続きに備えた権利保全の論点。
「関税還付24兆円、権利保全の期限迫る」
・本稿で扱う通商法122条の時限措置の位置づけ。
「122条は150日限り、関税の主役交代へ」
・関税再編下の調達戦略の再設計論点。
「調達先の正解が国ごとに変わる時代」
・関税再編とあわせて進む供給網の依存先見直しの動き。
「EU対米関税が前進し日米はレアアース協力」
本稿で触れた前倒し輸入の背景をIATA報告書から整理。
「航空貨物が関税前倒し輸送とAI投資を下支え、IATA」
■「より詳しい情報を知りたい」あるいは「続報を知りたい」場合、下の「もっと知りたい」ボタンを押してください。編集部にてボタンが押された数のみをカウントし、件数の多いものについてはさらに深掘り取材を実施したうえで、詳細記事の掲載を積極的に検討します。
※本記事の関連情報などをお持ちの場合、編集部直通の下記メールアドレスまでご一報いただければ幸いです。弊社では取材源の秘匿を徹底しています。
LOGISTICS TODAY編集部
メール:support@logi-today.com
LOGISTICS TODAYでは、メール会員向けに、朝刊(平日7時)・夕刊(16時)のニュースメールを配信しています。業界の最新動向に加え、物流に関わる方に役立つイベントや注目のサービス情報もお届けします。
ご登録は無料です。確かな情報を、日々の業務にぜひお役立てください。





























