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奥洲物産、1社の取り組みが生んだ東北物流の突破口

2026年7月27日 (月)

ロジスティクス宮城県東松島市を拠点に、住宅用資材や型枠合板などの幹線輸送を担う奥洲物産運輸。同社は時代の変化を先取りした独自の輸送体制と先進技術の導入を進めている。人手不足や「2024年問題」、CO2削減といった課題が物流業界へ押し寄せる中、同社はいかにして困難を打破し、新たな勝ち筋を見出しているのか。同社取締役部長の菅井憲秀氏の言葉を交えながら、現場の課題感から車両戦略、行政との粘り強い交渉劇、そして今後の展望に迫る。

現在、物流業界が直面している最も深刻な現実は「ドライバー不足」と「採用後の定着率」だ。同社ではSNSコンサルティングの活用などにより、募集を出せば20代から40代まで選べるほどの応募数を確保できる体制を構築した。しかし、真の課題は採用のその先にある。職場環境に対する若手や中堅層の価値観が大きく変化し、人間関係やメンタル面のケアが重視される時代において、かつて業界に根付いていた「上意下達」や「見て覚えろ」といった厳しい上下関係を前提にした指導は通用しなくなっている。

菅井氏は「東北の言葉で言えば、まさに『じょっこじょっこ』『めんこめんこ』で扱わないと、せっかく採用してもすぐに辞めていってしまう」と苦笑交じりに語る。「じょっこじょっこ」は幼子をなだめすかすこと、「めんこめんこ」は可愛がって頭を撫でることを意味する方言だが、今や若い世代に限らず、丁寧に寄り添うコミュニケーションを取らなければ人材は定着しない。同社でも一人ひとりの適性や得意・不得意に応じた業務配分を徹底し、頭ごなしの指導を改めることで定着率向上を図っている。

▲奥洲物産運輸の取締役部長の菅井憲秀氏

また、大型トレーラーや特殊車両は免許があるだけで即座に走らせられるものではない。社内での技術教育を丁寧に行うと同時に、運行ルートや荷物の特性に合わせて「誰にどの仕事を任せるか」をきめ細かく切り分ける配車管理が欠かせないという。こうした現場の意識改革が進む一方で、合板輸送を中心に展開する車両のラインナップや使い分けにおいても独自の戦略を展開している。

業界全体としては、シート掛けの手間がなく雨風を防げる「ウイング車」(箱型車両)への移行が主流だ。同社でもドライバーの身体的負担を軽減し、女性ドライバーや力仕事が苦手なスタッフでも長距離運行に携われるよう、ウイング車の導入を順次進めてきた。実際に、関東との往復を担当する女性トレーラー運転手にはウイング車を指定して運用している。

しかしその一方で、同社が昔から強みとしてきた「平ボディ車」の運用もあえて継続している。ウイング車が増えた結果、業界全体で平ボディ車を所有・運用する運送会社は急激に減少している。

しかし現場には、天井が開いた平ボディ車でなければ運べない荷物が数多く存在する。例えば建設現場や工場で、天井からクレーンを使って積み下ろしを行う「石灰」や「鋼材」などの輸送だ。ウイング車ではクレーン荷役ができないため、荷主企業から「平ボディ車で運んでほしい」という指名依頼が同社に集中するようになった。現在では「平ボディ車指定料」(割増運賃)や「下地シート掛けの手間に対する適正運賃」を提示できるケースも出てきており、ウイング車のような価格競争に巻き込まれずに済んでいる。手間や技術が必要となるため社内教育を徹底し、ウイング車と平ボディ車をバランスよく使い分けられることが同社の大きな強みだ。

こうした車両戦略や運賃の適正化を進める一方で、深刻化する人手不足や労働時間規制に対応するためには、ドライバー1人あたりの輸送能力を飛躍的に高める「輸送効率化」も急務となる。限られた人材でより多くの荷物を確実に運ぶため、同社がその切り札として導入を決めたのが、全長25メートル、10トン車2台分に相当する容積を持つ「ダブル連結トラック」だ。

▲同社が導入したダブル連結トラック

しかし、その導入にあたっては大きな制度の壁があった。国土交通省が推進するダブル連結トラックは当初、東北エリアでは内陸部を貫く「東北自動車道」のみが走行可能路線とされていた。しかし、同社が位置するのは沿岸部の東松島市だ。最寄りの沿岸エリアから東北道へ出るまでのおよそ40-50キロの一般道・接続道路が走れないため、制度上「運行不可」となっていた。

菅井氏は当時の危機感を次のように振り返る。「ドライバー不足緩和や輸送効率化、CO2削減のために特例車を活かすべきなのは間違いない。宮城県沿岸部ではダブル連結トラックを運用することはできなかったが、東日本大震災後に作られた復興道路(三陸自動車道(三陸道))は八戸までおよそ360キロが無料開通している。これを活用できないかと考えた」

「なぜダメなのか」を徹底的に解明するため、菅井氏らは宮城県や沿線市町村、仙台市、そして高速道路を管理するNEXCO東日本など関係各所を回り、話し合いを続けた。最初は「事例がない」「許可を出せない」の一点張りで断られ続けたが、粘り強く理由の確認と協議を重ねた結果、一つずつ行政側の理解を得ることができた。最終的にはNEXCO東日本からも適切な理解を受け、三陸道における通行許可を勝ち取ることができた。

奥洲物産が行政などから引き出したこの許可は、東北全体の物流企業に大きなインパクトを与えた。同社が道筋をつけたことで、センコーやティスコなど大手・中堅物流企業が仙台や東北エリアの主要拠点において相次いでダブル連結トラックを導入した。さらに、これまで東北エリアでの運行網拡大に壁を感じていた福山通運や佐川急便、ニトリ物流(ホームロジスティクス)なども導入や共同輸送へと本格的に動き出すなど、東北の物流業界全体を巻き込む一大ムーブメントへと発展している。

トラック保有台数およそ45台という地方の中小運送事業者が、人手不足などの課題を解決するために、自社の生き残りをかけて挑んだ前例のない通行許可の取得。その粘り強い足跡は、自社の輸送効率化にとどまらず、業界の大手・中堅企業をも巻き込み、東北全体の物流構造に大きな影響を与える結果となった。

菅井氏は「昔から運送業は一番下の立ち位置で、客や既存のルールに合わせざるを得ない立場だった」と振り返る。しかし、深刻な人手不足や制度の限界に直面する現代において、もはやその立場や受け身の姿勢に甘んじていられる時代ではない。地方の小さな企業であっても、自ら壁を打ち破り、道を切り拓く行動力こそが、これからの物流業界における新たなあり方を提示している。(土屋悟)

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