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熊本地震10年、支援物流の教訓は生かされるか

2026年7月30日 (木)

ロジスティクス2016年4月の熊本地震から10年。再び熊本を襲った大地震は、県内の生活基盤だけでなく、九州を南北に貫く物流インフラにも大きな損傷を与えた。

国土交通省によると、30日午前5時時点で、九州自動車道は益城熊本空港インターチェンジ(IC)―えびのIC間の10区間、南九州自動車道は八代ジャンクション(JCT)―水俣IC間の6区間が、道路損壊や橋梁損傷によって通行止めとなっている。九州中央自動車道も嘉島JCT―小池高山IC間が、接続する九州道の損傷により通行できない。

九州道では益城熊本空港IC―松橋ICと、坂本パーキングエリアの工事用出入り口―えびのICが緊急車両に開放され、九州中央道の嘉島JCT―小池高山ICも緊急車両は通行できる。直轄国道では被災による通行止めはなく、被災地への主要アクセスとなる国道3号と国道57号は確保されている。

一方、国は高速道路の通行止めによる渋滞を抑えるため、東九州自動車道への広域迂回を呼びかけた。29日には道路管理者や警察などによる「熊本県災害時交通マネジメント検討会」を設置し、物流車両を対象とした特殊車両通行許可の迅速化も始めた。

発災から2日で、広域迂回の確保と物流車両の通行手続きの緩和まで進んだ背景には、2016年に経験した道路寸断と支援物流の停滞がある。

2016年、九州道復旧まで13日

2016年熊本地震では、4月14日の前震と16日の本震により、九州自動車道や大分自動車道、国道57号、国道325号などが相次いで寸断された。

九州道では、益城バスストップ付近で盛り土法面が崩壊したほか、木山川橋で橋桁に30―40センチのずれが発生した。応急復旧を経て、嘉島JCT―八代IC間は4月26日、植木IC―嘉島JCT間は同29日に一般開放され、九州道は本震から13日後に全線で一般車両の通行が可能となった。

ただし、「全線開放」は本復旧の完了を意味しなかった。益城熊本空港IC―嘉島JCT間は対面通行や時速20キロ規制が続き、4車線への完全復旧は2017年4月28日。被災から約1年を要した。

大分道も橋梁や路面が損傷し、一般車を含む全線開放は2016年5月9日となった。九州の東西方向をつなぐ高速道路ネットワークが通常に近い形を取り戻すまで、3週間余りを要した。

一方、発災時には東九州自動車道が代替路として機能した。九州道が寸断されたことで、大型車が九州西側から東九州道へ転換し、東九州道の大型車交通量は一部区間で地震前の約3倍に増加した。国土交通省は、東九州道が飼料や農水産物の輸送を支え、九州南北軸のリダンダンシー(代替性)を発揮したと検証している。

阿蘇への東西ルートは長期寸断

高速道路の応急復旧が比較的早く進んだ一方、阿蘇地域へのアクセスは長期化した。2016年には阿蘇大橋地区の大規模な斜面崩壊で国道57号と国道325号が寸断され、俵山トンネルを含む県道熊本高森線も大きく損傷した。5月9日時点でも、熊本・大分・宮崎の国道で7か所、県道・政令市道で33か所が通行止めとなっていた。

熊本市側から南阿蘇へ向かう俵山トンネルルートが暫定開通したのは2016年12月24日。国道57号北側復旧ルートは2020年10月、架け替えられた新阿蘇大橋は2021年3月に開通した。

つまり前回は、九州を縦断する高速道路については2週間程度で一般交通を再開できたものの、橋梁や大規模斜面崩壊を伴った地域内幹線では、暫定復旧に数か月、本復旧には数年を要した。

この違いは、今回の復旧見通しを考えるうえでも重要になる。道路舗装の段差や盛り土崩壊は、迂回路や対面通行を設定できれば早期開放の余地がある。対して、橋桁、橋脚、支承など橋梁構造の損傷は、安全性の評価や補強、場合によっては架け替えが必要となり、復旧期間が長期化しやすい。

今回は九州の南北幹線を同時に直撃

2016年と今回の道路被害には、共通点と相違点がある。

前回も九州道が寸断され、南北物流は東九州道への転換を余儀なくされた。しかし今回、九州道の益城熊本空港IC―えびのICに加え、八代から水俣へ向かう南九州道も同時に通行止めとなった。

九州道は福岡・鳥栖方面から熊本、八代、人吉、鹿児島へ向かう内陸の主軸であり、南九州道は八代から水俣、鹿児島県出水方面へ向かう沿岸軸となる。両ルートが同時に寸断されたことで、福岡・佐賀方面から熊本県南部、鹿児島方面への幹線輸送は、東九州道や一般国道への大幅な迂回を迫られる。

特に、九州道では道路損壊だけでなく橋梁損傷、南九州道でも道路損壊と橋梁損傷が報告されている。30日朝時点では被害の詳細調査が続いており、一般車両や大型物流車両への開放時期は示されていない。

このため、現段階で前回以上に復旧が長期化すると断定はできないものの、複数の南北幹線にまたがる橋梁被害であることから、九州広域物流への影響が長引くリスクは小さくない。

国道3号が確保されていることで、熊本県内の南北交通が完全に途絶しているわけではない。ただ、高速道路から国道3号へ車両が集中すれば、市街地や沿線で渋滞が発生し、通常の幹線輸送だけでなく、給水、電力復旧、支援物資輸送の所要時間にも影響する。

▲熊本県庁内の救援物資の保管状況(出所:一般財団法人消防防災科学センター「災害写真データベース」)

2016年には電力、水道、鉄道、店舗などの生活インフラも同時に被災した。九州電力では48万戸が停電した。阿蘇市、高森町、南阿蘇村では土砂崩れで送電線が使えず、全国の電力会社から発電機車110台の応援を受け、本震から4日後までに順次送電した。最大時には九州電力と応援要員を合わせて4000人を超える規模で復旧に当たった。

熊本市の水道は本震後、32万6000戸で断水した。九州新幹線は回送列車の脱線や設備損傷により全線運休し、4月27日に全線で運転を再開した。熊本空港はターミナルビルが損傷したが、救援拠点として24時間運用され、旅客機の運航も段階的に戻った。

今回も30日朝時点で、熊本県内10自治体の7万700戸が断水中。10年前にはなかった災害級の暑さの影響も心配される。九州新幹線は筑後船小屋―鹿児島中央間で運転を見合わせ、熊本―鹿児島中央間では防音壁の落下損傷など200か所以上、レール破断2か所、橋桁のずれ1か所が確認された。熊本空港は発災当日に滑走路を一時閉鎖したが、同日夜に解除し、29日は通常運用に戻った。

道路と新幹線が同時に寸断されるなか、航空と海上輸送を含めた代替輸送の確保が今後の課題となる。ただ、海上では熊本―長崎間の1航路で運休が発生しており、交通モードごとの被害を見ながら輸送を組み替える必要がある。

263万食を送っても、避難所まで届かなかった

前回地震の検証で、道路復旧と並んで大きな課題になったのが、支援物資を避難所まで送り切る仕組みだった。

国は本震後、被災自治体からの詳細な要請を待たずに食料や生活用品を送るプッシュ型支援を本格実施した。5月6日までに263万食を調達・供給し、4月20日には1日で61万食を送り込んだ。

この取り組みは発災直後の物資不足を和らげた一方、受け入れる自治体側では混乱も生じた。国の初動対応検証では、物資の到着時間が把握できず、職員が24時間待機したこと、フォークリフトなどの機材が不足したこと、施設の床耐力が足りず機材を使えなかったこと、市町村内の配送手段が確保できなかったことなどが指摘された。

物資の調達と県までの幹線輸送はできても、県の広域物資拠点、市町村の地域内輸送拠点、個々の避難所をつなぐ物流が一体で管理されていなかった。

避難者数や在庫、配送先の情報も十分に共有されず、指定外避難所や車中泊避難者の需要はさらに把握しにくかった。結果として、物資が届かない場所がある一方、別の拠点には扱い切れない物資が滞留した。

前回地震で課題となった支援物流の目詰まり

内閣府は検証後、都道府県の「広域物資輸送拠点」と市町村の「地域内輸送拠点」を経て、避難所まで続く物資輸送全体を管理する体制が必要だと整理した。物流事業者との連携、民間物資拠点の事前整理、物資の配送・到達状況を把握する情報システム、道路情報の輸送ルート選定への活用などを改善策に掲げた。

今回、熊本県は発災翌日の29日、グランメッセ熊本の展示ホールAを県の物資集積拠点として開設した。国のプッシュ型支援によるパン1万食を受け入れ、スポットクーラーと電源車の受け入れを調整。電源車の一部は避難所へ発送した。

県はセブン‐イレブン・ジャパンなど災害時物資供給協定を結ぶ企業にも物資提供を要請している。

16年の検証で示された「災害時に利用可能な物資拠点を事前に定める」「大量の物資が届く前に受け皿を開く」「行政の調達だけでなく民間流通網を使う」という方向性は、今回の初動に反映されている。

道路面でも、国道3号と57号のアクセスを確保し、発災翌日に交通マネジメント検討会を設置。特殊車両通行許可を迅速化し、東九州道への広域迂回を早期に呼びかけた。16年に東九州道が代替路として機能した経験が、今回の交通運用にも生かされているとみられる。

しかし、現時点で見えているのは、県の物資拠点の開設と国・協定企業からの物資受け入れまでだ。

グランメッセ熊本で誰が荷役、仕分け、在庫管理を担っているのか。県拠点から市町村拠点までをどの物流事業者が運ぶのか。高速道路が寸断されたなかで、避難所への配送ルートをどのように設定するのか。こうした運用の実態はまだ明らかになっていないが、物流事業者・運送事業者の経験や、データ活用の進歩が被災地物流に貢献することは間違いない。

前回地震の教訓は、支援物資の総量ではなく、必要な場所へ必要な量を送り切れるかが支援物流の成否を分けるということだった。10年後の今回は、物資を受け入れる仕組みと広域交通を管理する体制が、前回より早く動き出した。ただし、その仕組みが実際に避難所まで機能したかを評価できるのは、これからになる。

特に今回は、九州道と南九州道という南北幹線が同時に被災した。応急復旧の速度だけでなく、東九州道や国道3号への交通転換、一般物流と復旧・支援車両の優先順位、県南・南九州方面への迂回輸送をどう管理するかが、前回以上に重要な検証項目となる。

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