ロジスティクス2024年4月に自動車運送業分野が在留資格「特定技能」の対象に追加されて以降、外国人運転手の受け入れに向けた動きが全国で本格化している。出入国在留管理庁によると、2025年12月末時点の同分野の特定技能1号外国人数は151人にとどまる。しかし、ヤマトホールディングス傘下のナカノ商会(東京都江戸川区)がベトナム人候補者を採用し、西濃運輸でも特定技能のベトナム人運転手が幹線輸送トラックでの単独乗務を開始するなど、大手が相次いで実用化に動き出した。一方で、言葉の壁などを理由に採用に慎重な事業者も依然として多く、多国籍化する現場の受け入れ体制構築と、内需を支える新たな労働力の定着が急務となっている。
こうした現場の警戒感とは裏腹に、外国人材の供給ポテンシャルは早いペースで拡大している。日本海事協会(千代田区)が毎月実施している「自動車運送業分野特定技能1号評価試験(トラック)」の26年1月から7月までの最新実施状況を集計すると、7か月間で国内外で延べ3556人が受験し、2539人が合格(平均合格率71.4%)した。毎月平均360人超の実戦力候補が続々と誕生しており、「採用したくても人がいない」という事業者の先入観は、すでに過去のものとなりつつある。
採用をためらう懸念事項はどこにあるのか。物流業界向けの人材紹介サービスなどを展開するAzoop(アズープ、港区)が25年12月に運送従事者を対象に実施した調査(有効回答111人)によると、83.7%が人手不足を感じているものの、外国人運転手の採用について「全く検討したくない」「あまり検討したくない」と答えた事業者は計64.8%に上った。懸念のトップは「日本語能力や運転技術」(66.2%)で、「日本人運転手とのコミュニケーションや文化の違い」(54.4%)が続く。ノンデスク事業者向け採用システムなどを手がけるX Mile(クロスマイル、新宿区)の調査でも、半数超が「日本語でのコミュニケーションへの不安」を最大の課題に挙げた。
事業者が二の足を踏む最大の要因は、コミュニケーションと運転免許取得という二重の現実的な障壁だ。運送現場では納品先での荷役作業の指示受けやイレギュラー時の状況報告など、文脈理解が求められる。さらに、候補者が評価試験に合格しても、入国後の外免切替(外国免許から日本免許への切り替え)や教習所での新規取得にかかる時間と費用の負担が、経営者の決断を鈍らせている。
こうしたなか、入念な支援体制を構築し、外国人材の戦力化に向けて先行する動きが大手企業を中心に目立ち始めている。
SBSホールディングスは、今後10年以内に自社のトラック運転手の3割にあたる1800人を外国人とする方針を掲げる。インドネシアでの自動車学校設立に加え、グループの自動車学校が、外国人の教習から免許取得、就職あっせんまでを3言語で一貫して支援する体制を構築した。

(出所:ナカノ商会)
ヤマトホールディングス傘下のナカノ商会はことし2月、特定技能の中型トラック運転手候補としてベトナム人3人を採用した。企業間輸送での単独乗務に向け、厚木営業所(神奈川県厚木市)で独自の教育スキーム「厚木モデル」を構築し、日本人運転手の同乗研修などを通じて早期の即戦力化を図る。
西濃運輸は3月、特定技能のベトナム人運転手が路線乗務社員として同社初となる幹線輸送トラックの単独乗務を開始した。セイノーラストワンマイルも、インドネシアで外国人女性運転手を育成するプログラム「HanaLogi」(ハナロジ)を展開する。
中小企業への導入支援でも成果が出始めている。外国人材の定着支援を行うProud Partners(プラウドパートナーズ、東京都新宿区)はことし6月、支援する特定技能人材について、国内の運送会社で累計200人超の内定を創出した。「採用して現場に配属し、あとの教育は現場任せにするという姿勢を改める必要がある」。同社の岡村アルベルト取締役は強く呼びかける。同社がウズベキスタンで展開する教育スキームは、当初入学から6か月で日本語試験に合格する計画を立てていたが、3か月強で試験に合格する者が現れ、8人が日本での特定技能1号運転手としての入国条件を満たした。

▲Proud Partnersの岡村アルベルト取締役
岡村氏は「想定以上に早いスピードで生徒たちが試験に合格している。ウズベキスタンの方々は耳がよく、他言語を吸収するスピードが高く、日本語での会話も我々に近いイントネーションで話す」と要因を分析する。同社では教育カリキュラムを細かく設定して頻繁にクラス分けを実施し、毎週のように小テストを行うなど、個人のレベルに合わせた学習環境を構築した。
一方で、日本語の難しさやごみの分別といった日本の文化になじめず、自主退学する者も一定数存在する。しかし岡村氏は「日本に来てから息苦しさを感じるより、事前育成の段階で判断できるのは、本人にとっても、採用した企業にとっても結果的にはいい」と語り、日本に渡航してから地域社会とトラブルを起こす事態を未然に防いでいる。
新たに直面した課題も存在する。ウズベキスタンでは公的医療は原則無償など、旧ソ連時代の影響もあり、医療・年金制度は日本とは全く異なる。そのため、額面から社会保険料を差し引く日本の給与システムへの納得を引き出す作業に苦労したという。社長室のイブロヒモワ・ズライホ氏は「残業代など日本の仕組みをウズベク語で分かりやすく説明するよう工夫している」と明かす。
トラック運転手は乗務時に一人で業務を完結する特殊性を持ち、交通安全は人命にかかわる重大な問題となる。事業者が外国人材を受け入れる際、「正しく恐れる」べきは、漠然とした得体の知れない不安ではなく、こうした文化の違いや交通ルールの誤認が招く事故という現実のリスクだ。

▲イズミ物流の特定技能ドライバーたち(出所:ダイセーホールディングス)
第1弾として連携し300人の運転手育成を目指すイズミ物流(東京都千代田区)とは、現地で開始予定の安全講習と実地訓練において、同社の安全基準やノウハウを詰め込んだ独自マニュアルを使用し、日本の交通ルールや路上駐車禁止など業界の常識を省略せずに教育する。岡村氏は「ルート説明をどこまで丁寧にしたらいいのか、路上駐車が駄目だといった基本的なルールを省くことなく、自社で育成の仕組みを作れるかがポイントだ」と警告する。
同社では手厚いアフターフォローを実施しており、就労する本人や企業側と、対面で3か月に1回、オンラインで月1回の頻度で対話する。「注意された理由が路上駐車の教育不足なら、教育スキームに入れた方がいいと企業に提案し改善するサイクルを回す」(岡村氏)。現場で発生したトラブルの理由をヒアリングし、次回の安全講習や企業への提案に直接フィードバックする仕組みだ。
外国人材の受け入れをめぐる議論は現在、一企業の労働力確保を超え、日本経済の構造課題へと直結しつつある。ことし4月、外食業分野における特定技能1号の新規受け入れが上限到達見込みにより一時停止される事態が起きた。一部の事象で制度が揺らぐ状況に危機感を抱いた岡村氏は、同業の大手支援機関とともに、外国籍人材の受け入れに関する実態の可視化を目的とした特定技能コンソーシアム(TGC)をことし4月に設立した。
TGCが設立の背景として提示した視点は示唆に富む。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、日本の生産年齢人口は20年の7500万人から、50年には5500万人へと減少する見通しだ。労働力が不足するということは、国内の「消費の担い手」が減少し、内需の縮小に直結する。「ロボットやAI(人工知能)の活用により生産性の向上は進む一方で、買い手の減少という構造的な課題は解決されない」とTGCは警鐘を鳴らす。
TGCが7月に発表した「特定技能人材1236名の実態調査」は、マクロ経済への好影響をデータで裏付けている。「今後も日本で働き続けたい」と回答した人材は75%に達し、出入国在留管理庁が発表した在留者数に基づく試算では、特定技能人材と受け入れ企業が納付する税金や社会保険料は年間3365億円に上る。これは地方税収入の下位5県の合計額を上回る規模だ。総収入から母国への送金額を除いた大部分が、国内の消費や貯蓄として日本経済に還流している。
経済貢献の実態が明らかになる一方で、地域社会への受け入れにおいては「治安の悪化」を懸念する声も根強く存在する。しかし、データが示す事実は異なる。岡村氏は「同じ年齢層で比較すれば、外国人材の犯罪率のほうが日本人よりも低い事実を客観的なデータで証明できた」と指摘する。さらに、在留資格別の検挙人員率(1万人あたり)を見ても、特定技能は18.6人と来日外国人全体の平均の約半分にとどまっており、就労目的の特定技能人材が地域社会の脅威になるという見方を統計的に否定している。
根拠なき警戒をデータで払拭(ふっしょく)し、実務におけるリアルな課題と向き合う。「まずは業界全体に安心材料を提供し、市場の熱を上げたい」。日本で長く暮らす岡村氏の言葉には、感情論を排した冷静な議論を促す願いが込められている。
労働力不足の先にある買い手の減少を見据えたとき、年間4000人超のペースで誕生しつつあるトラック運転手の合格者たちは、単なる人手不足対策ではなく、日本経済をともに支える担い手としての再定義が求められている。
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