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物流標準化はAI同士の会話で、Hacobu社長が構想

2026年10月2日 (金)

サービス・商品Hacobu(ハコブ、東京都港区)の佐々木太郎社長は本誌LOGISTICS TODAYの取材に応じ、9月30日に発表した「Hacobu X」(ハコブ・エックス)に込めた思いとそれによって実現させたいビジョンを語りつつ、企業間のデータ連携に向けて業界が長年進めてきた標準化についても、各社のAI同士のやりとりで置き換える構想を明らかにした。

▲Hacobuの佐々木太郎社長

「業界全体で一つの決まりにそろえる標準化は、そもそも実現できない」と言い切りつつ、最初の一歩としてこれまで「できません」と断ってきた荷主や物流会社ごとの個別システムの開発をAIにプログラムを書かせる方式で引き受ける考えで、すでに最初の顧客が複数社決まっているという。

二つの取り組みを支えるのは、物流で使われる言葉の意味とつながりをAIが読める形に整理した「オントロジー」といわれる概念であり、導入企業1100社超、利用事業所4万7000か所超(8月末時点)のクラウドサービス「MOVO」(ムーボ)などを通じて創業から11年間で得た知識をもとに作った。(編集長・赤澤裕介)

Hacobuが発表時に挙げた例では、同じトラックであっても、ある会社は「大型車・小型車」という区分で、別の会社は「10トン車・2トン車」という区分で管理しており、人の担当者であれば両者の対応に見当がつくものの、AIはそのままではこれらを結びつけることができない。

オントロジーとは、こうした物流の言葉の一つ一つについて、それが何を指し、ほかの言葉とどうつながるのかを書き出してAIに読ませるための整理表のようなものであり、同社は発表時にこれを、AIが物流を理解するための設計図だと説明している。佐々木社長は取材で、その役割を「AIは物理世界を理解していないので、AIにわかるような意味付けをしてあげる。それを我々が作れているというのが、すごく重要なことで」と語った。

佐々木氏が例に挙げたのは配車で、「『配車をする』となると、どれだけの荷物の量があって、それぞれの車が何台あって、車には車格というものがあって、車格にはこういうものがあって、ということを定義して、AIに理解してもらえるようにする」という。ベテランの配車担当者が頭の中で当たり前に扱っているこうした要素を一つずつ分けて言葉で定め、AIに渡していくわけで、「車格」という言葉一つを取っても、トラックの大きさを表す区分を指すこと、積める重さと結びつくこと、配車では荷物の量と照らし合わせて使うことまでを書き出していくことになる。

この整理表があることで、二つのことが可能になる。一つはAIに物流のシステムを作らせることで、こういう仕組みがほしいと伝えればAIが整理表に沿ってプログラムを書き上げる。もう一つは会社ごとに違う呼び方をAIに読み解かせることで、各社のシステムを作り替えないままデータをつなげるようになる。今回Hacobuが打ち出した二つの取り組みは、いずれもこの整理表の上に成り立っている。

オントロジーを使って情報システムを作るという発想そのものは1990年代から提唱されてきたものの、定めた内容を実際に動くシステムにするには人が大量のプログラムを書く必要があったため、長く実用には届かなかった。同氏は「コーディングのところはAIがかなりやってくれるようになったので、そこのボトルネックが外れて、実現できるようになってきた」と話し、蓄えた記録から整理表の仮説を導き出す作業もAIが担えるようになったことが、今回の取り組みに踏み切ったきっかけだという。

その整理表の中身は、同社が11年間にわたって蓄えてきた記録をもとに作られている。同社は商談の内容や、導入支援の担当者が現場に入った際の記録をほぼすべてデジタルで残しており、食品、化学、鉄鋼と業種ごとにさまざまな仕事の進め方を横に並べて分類するという人手では難しい作業をAIに任せることで、整理表のたたき台を作った。取引データをそのままAIに覚えさせたのかと尋ねると、「データを食わしてるわけじゃないですよね。そこはモデルを作るということなんです」と念を押した。

モデルを組むうえで何より大事なのは、多くの現場を知っていることだという。「食品のことだけじゃなく、化学も知っているし、鉄も知っている。その中でモデルを組む」と話し、ChatGPTのようなAIが大量の文章を読んで学んだからこそ幅広い質問に答えられるのと同じ理屈だと説明した。同じ発想の仕組みを出す会社が現れるかとの問いには、「トライする会社は出てくるかもしれないんですけど、いきなり今から参入してやりますって、結構難しいかなと思っています」と答え、物流の分野でオントロジーを使って情報システムを作るのは「おそらく初めて。世界的にもあまり見ていないですね」と話した。

諦めていたシステム、AIで品質良く、安く短納期に

Hacobuはこれまで、クラウド上の一つの仕組みを多くの利用者で共有する形でMOVOを提供してきた。会社ごとにシステムを作れば費用がかさみ、そこまでの予算を割ける物流事業者は少ないことから、共有型にすることで安く使えるようにしてきたわけだが、その半面、自社の業務には合わない、基幹システムとつなぐ部分をこう変えてほしいといった要望のうち、設定の変更で応じきれないものには「それはできませんと、お伝えしていました」と振り返る。「そういう世界観が、AIが登場したことでガラッと変わりそうになっている」。取材の冒頭で語ったこの一言に、Hacobu Xの出発点がある。

11年間取り組んできた物流DXの広がりが、想定していたほど速くなかったことも率直に認めている。法改正を機に導入は速まってきたものの、「こういう業務をやりたいというのを実現しようとすると、めちゃくちゃDXにお金がかかる。そんな予算は取れないので、いまだにみんな気合と勘と度胸でやっている」というのが現場の実情だ。本誌が売り上げを伸ばすための事業なのかと尋ねると、「売り上げ自体もそれで作れます」としたうえで、「まずは、いろんな会社のDXをもっとスピードを上げてやらなきゃいけない」と答えており、個別の仕組みを安く短期間で作れるようにすることでその広がりを後押ししたいというのが、Hacobu Xに込めた思いの一つだ。

Hacobu Xでは、これまで断ってきた要望を引き受けることになる。同社がHacobu X上でAIにプログラムを書かせてシステムを作り、利用者はできあがったシステムを使う形で、利用者がAIを操作する必要はない。発注先はHacobuで、使い勝手やサポートの体制も既存のサービスと変わらない。できたシステムは一つのクラウドの上でまとめて動かすため、「これまでのようにバラバラに作るより安くできるし、早く作れるし、品質もいい」という。

営業の姿勢も変わる。これまで聞いても応じられなかった細かな要望を、今後は聞き取ってシステムに反映させていくことになり、本誌が「断る側から、何でも聞く側に変わるということか」と確かめると、「そういうことですね」とうなずいた。

相談はすでに相次いでおり、配車の仕組みがないので一から作ってほしいという依頼もあれば、バースの予約と基幹システムの間をつなぐ部分を作ってほしいという依頼、輸配送の管理全体を任せたいという相談もあるという。会計まで含めて業務全体を任せたいという依頼もあったが、「これは大きすぎるかなと思って、お断りしたんですけども」と明かす。

つなぐ部分の開発は、取材で繰り返し挙がった使い道だ。古い基幹システムは手を加えにくく、そこから直接MOVOとデータをやりとりさせるのは難しいものの、間につなぎ役の小さなシステムを置けばMOVOからデータを受け取って基幹システムに渡すことができる。こうした相談は以前から多く、Hacobu Xであればそのつなぎ役を短い期間で作れるという。

どの程度の規模の開発を考えているのかについても確かめた。流しのタクシーのように空車のトラックを拾える仕組みまで含め、物流網全体に関わる開発を念頭に置いているのか、それとも拠点ごとの業務改善を速く届けるためのものなのかと尋ねると、答えは「まず後者ですね」と明快だった。特定の荷主向けに独自のトラック予約受付システムを作ることもでき、納めた後も顧客と一緒に改良を続けていける。

手がける範囲は、拠点と拠点を結ぶ輸配送に絞っている。「このインフラって、コンピューターのネットワークに似てるなと思っていて」と話すように、倉庫などの拠点をハブ、拠点間の輸送をリンクと捉えたうえで、同社がデジタル化したいのはリンクの側で、倉庫の中はすでに多くの事業者が手がけているため協業で対応する考えだ。機器を動かすハードウエアの開発についても「我々がハードのところに入っていくかというと、それはないと思います」と明言し、バースに入るトラックをカメラで捉えて予約システムに反映させるといった取り組みは、カメラの供給事業者と組んで進めている。

値段の決め方も、同社にとっては新しい試みとなる。「これまでの情報システムの作り方って、原価積み上げなんですよ」。かかった費用に利益を上乗せして値段を付けるのが一般的だったが、今後は導入先の業務にどれだけ効果が出るかで値段が決まる形に移っていくとみており、「その仕組みであれば、どれだけのインパクトがその会社にとってあるから、いくらで買うよ、というようなモデルに変わっていくと思っています」と話す。比べる相手は一からの特注開発で、一つの仕組みを共有するMOVOの方が今も安いことに変わりはない。複数社のシステムを一つのクラウドでまとめて動かすため、運用の費用も抑えられるという。

同社は25年7月に物流に特化したシステム構築事業「Hacobu Solution Studio」(ハコブ・ソリューション・スタジオ)を始めており、同社によるとHacobu Xを最初に使うのはこのチームで、MOVOだけでは応じきれない企業ごとの輸配送システムの開発にあてる。

既存のMOVOにもこの1年でAIの機能を相次いで載せてきており、2月には紙やファクスで届く帳票を生成AIで読み取ってデータにする「MOVO Adapter(アダプタ)」、8月には配車サービス「MOVO Vista(ビスタ)」に配送計画をAIが組む機能を加え、9月には運賃の請求書と契約の中身をAIが突き合わせて食い違う明細だけを担当者に示すサービスも始めた。現場の手作業を一つずつAIに置き換えていく動きと、AIに個別のシステムを作らせるHacobu Xとが並行して進んでいることになる。

各社の呼び方を変えずにデータ連携

本誌が視察した上海の物流拠点では、中国全土から集まる荷物をさばく倉庫で最も使われているITツールが、対話アプリの「WeChat」(ウィーチャット)だった。現場の作業員、現場責任者、物流会社の管理職、荷主の担当者が同じグループに入っており、長尺物の扱いに現場が迷えば写真を送って荷主と直接相談する。なぜそこまでするのかと聞くと、「夜中の1時だろうが2時だろうが、仕事は止まらないので」という答えが返ってきた。現地の担当者からは「なんで日本は、WeChatよりも優れたLINEがあるのに使わないんですか」と何度も聞かれた。

上海では会社の境界をまたぐ確認と調整を人がチャットで24時間こなしていたわけだが、Hacobu Xの先に描かれている道筋は、これを人からAIに移していくものだ。個別のシステムが安く作れるようになればデジタル化する現場が増え、現場の情報がデジタルになればその上でAIを動かせるようになり、各社でAIが動けばAI同士がやりとりできるようになる、という順番を思い描いている。「AI同士で会話ができるようになると、マスタを統一するとか、ああいうのはいらなくなる」

日本の物流業界は、こうした調整を減らす手段として共通の決まりづくりを選んできた。日本ロジスティクスシステム協会(JILS)がまとめた物流EDI標準「JTRN」や、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)が策定した物流情報標準ガイドラインがその例だが、業界全体で使われる共通のコードはいまだにできていない。

各社が今の仕組みと呼び方を使ったままでも、違う言葉で呼ばれている同じものをシステムの側で読み解いて結びつければよいというのが同氏の考えであり、「分散していてもいいから、違うものなんだけど同じ意味、というものを、別の仕組み同士が会話できる世界」を作りたいという。冒頭の「大型車」と「10トン車」の例であれば、各社に置いたAIが整理表を手がかりに互いの呼び方を読み解き、どちらの管理方法も書き換えずにデータをつなぐことになる。取引先ごとに品名や車両の呼び方を一つの台帳にそろえる作業(マスタ統一)も、要らなくなるとみている。

読み解く役を担うのは、任された仕事を自分で進めるAI、いわゆるAIエージェントだ。同社はHacobu X上にAIエージェントを作る機能を用意しており、Hacobu Xで作ったシステムの上にAIエージェントを置き、取引先の側にもAIエージェントがいれば、両者がやりとりして意味を突き合わせ、データを受け渡すことができる。同社によると、まず配車や請求の処理をAIが人の確認を経ながら進める段階を目指し、その先で会社をまたぐ業務へと広げていく考えで、MOVOはすでに多くの業種の拠点で使われていることから、「乗れる素地ができているかなと思って」と話す。

荷主が出荷の依頼に「大型車1台」と書き、取引先の運送会社が車両を「10トン車」で管理している場面に当てはめてみると、今であればどちらかの担当者が電話やファクスで確かめるか、両社であらかじめ呼び方の対応表を作っておく必要がある。構想が実現すれば、この確認を両社のAIエージェントが引き受け、人は結果を確かめればよくなる。

Hacobuからは、MOVOを使う各社の仕組みがどうつながっているかを見渡すことができる。顧客の発注を待たずに、Hacobuが利用企業同士の仕組みを結ぶことはあるのかと尋ねると、今のところ想定していないと答えつつも、「ここもここもハコブさんのユーザーなんだから、一緒にみんなでやろうよ、みたいなことを言われることって結構あるんですね」と明かし、関係者の合意を取りながら進める形であれば可能性はあるという。「つなげるということがすごく重要だと思っているので、トライはしたいですね」と話した。

AIに任せられることと任せられないことの線引きについても、同氏ははっきりさせた。通販事業者が宅配大手3社に分けて出している荷物を組み合わせ、収益の高い輸送ルートを毎日計算し直すようなことはできないのかと本誌が尋ねると、「AIの話になると、最適化系の話が混ざってくるんですけど、最適化系って、今のLLMの恩恵はそんなに受けてないんですよ」と切り出した。

ChatGPTに代表される文章を扱うAI(大規模言語モデル)が得意とするのは、大量の情報から意味を読み取ることであり、プログラムを書く力もその延長線上にある。3社の出荷データを並べたとき、「ここと、ここと合わせられるかも、みたいなのを出してくる」のがこのAIの仕事で、走る距離が最も短くなる組み合わせを数式で解くのは別の技術だという。Hacobuが発表時に、複数の企業が参加する共同輸配送で会社ごとに形式の違う出荷データを整理し、積み合わせの候補を出す仕組みの検討をHacobu Xの使い道の一つに挙げているのも、候補を出すところまでをAIが担う設計で、取材での説明と一致する。

利用者の側に求められるものも変わってくる。「AIの力を取り入れるというのは、ダイレクトにAIに何か質問して回答を得るとかじゃなくて、まずは情報システムを作るところがでかいような気がしますね」と話し、半年ほど前までは利用者が自分でAIを触ることに関心が集まっていたとしたうえで、今後は利用者がAIの作ったシステムを使う形が中心になるとの考えを示した。AIを使いこなせるかどうかにかかわらず、現場の担当者がHacobu Xの顧客になれることを意味する。

名前にも、その思いが表れている。MOVOも個別に作るシステムもすべてHacobu Xの上で動くことになり、「これはムーボ(シリーズ)じゃないなと思って。会社全体の基盤になっているなと思ったので、ハコブ・エックスという名前にしました」。社名とXのどちらに思いを込めたのかと聞くと、「Xですね」と即座に答え、さまざまなものを扱えるクロス、物流を変えるトランスフォームの意味に加え、「このインフラを次世代のものにしていくための、切り札になるんじゃないかなと思って」と、名前に込めた思いを明かした。

海外での展開もありうるとし、「特にAIは、日本語から他の言語に変換するのも得意なので」と理由を挙げた。同社は6〜7月、既存顧客からアジア太平洋地域への展開を打診されてシンガポールを訪れており、現地の物流会社からもDXの需要を聞き取っている。

発表時点でHacobu Xを使ったシステムの運用はまだ始まっていないが、最初の顧客について聞くと「ファーストだけじゃないかもしれないですね」と含みを持たせ、個別の開発提案も進めているという。「そういう引き合いは非常に強い」。同社はHacobu Xを使った開発事例を順次公開していく。

Hacobu、企業間物流データをつなぐAI基盤開発

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