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適正原価に滲む違和感、一律化と細分化の大きな壁

2026年10月1日 (木)

行政・団体第3回「適正原価の設定に向けた有識者検討会」が1日に開催された。当日は、物流事業者、労働組合、経済団体、そして個別荷主業界からのヒアリングが行われ、その後事務局から適正原価に関する論点が提示された。

最初にヒアリング発表を行ったのは鉄道貨物輸送側の全国通運連盟(全通連)。全通連は、鉄道貨物輸送が集配、荷役、幹線輸送などを組み合わせたネットワーク型サービスであることを強調し、「トラックによる集配部分だけを切り出さず、一貫輸送全体を原価算定の対象とすべき」と主張。また、空コンテナ輸送の削減や積載率の向上、輸送ルート見直しといった事業者の努力によって生じるコスト削減効果について、「直ちに運賃引下げの根拠とせず、将来の設備投資、安全対策などへの投資原資として評価すべき」と訴えた。効率化のために初期投資や継続的なシステム費用を投じているにもかかわらず、コストが浮いた分だけ荷主から運賃引き下げを求められてしまっては、必要な投資原資が残らないという危機感の表れだ。

▲第3回適正原価有識者検討会の様子

続いて労働組合側の全国交通運輸労働組合総連合(交通労連)は、トラックドライバーの賃金が全産業平均を下回る現状を報告し、「時間当たり賃金は全産業平均比で82.5%とされ、賃上げ、労働時間短縮、休日増加により、全産業平均まで改善する必要がある」と強調。「適正原価による収受額がドライバーの労働条件改善に還元されているか、監査や事業許可更新時の審査等で確認すべき」と、実効性のある還元メカニズムを求めた。

これに対し、荷主・事業者の双方を抱える経済団体である日本経済団体連合会(経団連)は、制度導入の趣旨に賛同しつつも「荷主・物流事業者双方に持続可能な制度であることを重視すべき」と指摘。さらに全国中小企業団体中央会からは、運輸業における「転嫁率10%未満の回答が50.7%と過半を占め、他業種と比べても厳しい状況」という独自の調査結果が示され、サプライチェーン全体での納得感ある価格転嫁の必要性が語られた。

ヒアリングの終盤では、日本新聞協会(新聞協会)が登壇。新聞輸送が分刻みで管理され「荷待ち時間はほぼ発生しない」という特殊性を説明した上で、現行の標準的運賃で実車率が一律50%(帰り荷なし)と設定されていることに対し、「製紙会社のトラックでは7割から8割程度で帰り荷を確保しているとし、業界の効率化努力を評価せず、一律に帰り荷なしを前提とすることには違和感がある」と強い懸念を示した。さらに、貨物車の実際の平均使用年数が16年ほどであるというデータを提示し、「標準的運賃の5年償却をそのまま適正原価に反映すると、荷主負担が過剰になるのではないか」との懸念を示した。

このように、同じ物流に関わるプレイヤーであっても、業界が違えば帰り荷の有無や車両の稼働実態は大きく異なる。一律の基準(帰り荷なしなど)を当てはめることに対して明確な「違和感」が示されたことは、単一の物差しで測ることの難しさを浮き彫りにしている。

その後、事務局から適正原価の運用をめぐる論点が示された。国交省はこれまでの検討で、個々の運送契約ごとに運賃・料金が適正原価を上回ることを求めるのではなく、一定期間における運賃・料金収入全体と適正原価全体を比較して判断する方向性を示している。

最大の壁は、「細分化」と「一律化」のジレンマである。貨物の特性や車両形状、地域差、帰り荷の確保しやすさなどを細分化して精緻に織り込もうとすれば、数値の提示や運用そのものが極端に困難になる。一方で、一律の大括りな基準でまとめてしまえば、先述の新聞協会のように実態と大きく乖離し、制度の形骸化を招きかねない。

また、制度の構造的な欠陥を防ぐ手立ても未整理だ。現在でも、効率化や企業努力により利益を確保している事業者がいるが、仮に制度設計によって、効率化に取り組んだ事業者とそうでない事業者との差が十分に反映されない仕組みとなれば、業界の競争力を損なうおそれもある。積載効率の向上や付加価値の創出といった自助努力が、正当に運賃へ反映される「インセンティブ」の仕組みが不可欠となる。

さらに、適正原価を下回っているかどうかの判定において、特定の一運行の運賃が安いことのみを取り上げて問題視する仕組みには無理がある。年間平均で評価するのか、あるいは荷主別・業務別でどう扱うのかといった、測定単位の確立も急務である。

結局のところ、適正原価制度の成否は「複雑なコストをどこまで計算式に落とし込めるか」という数値設定の問題にとどまらない。運賃や付帯作業の対価について、荷主と物流事業者が同じテーブルにつき、論理的な根拠をもって議論・合意形成できる「プラットフォーム」として機能するかどうかにかかっている。

物流全体の最適化には、例えば車上渡しを徹底することでドライバーの負担が減る半面、着荷主の荷降ろし負担が増大するといった「トレードオフ」(痛みの分担)が必ず伴う。各論で噴出する利害対立をどう調整し、双方が納得できる持続可能なサプライチェーンへと着地させるのか。今後の制度設計の行方が注視される。(土屋悟)

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