ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

「国際物流総合展2024」特集(パート2)〜物流業界注目の「CLO」とは

社会課題対応の軸に、CLOに求む「利他」の精神

2024年8月20日 (火)

話題物流危機への課題感を持った関係者が一堂に会する「国際物流総合展2024」では、物流関連2法の改正で、一定規模以上の荷主企業に義務付けられたCLO(物流統括管理者)の設置について情報交換する来場者も多いのではないだろうか。CLOは、物流の効率化に向けた中長期計画の作成、事業運営方針の作成と管理などを担う、事業運営上の決定に参画する管理的地位にあるものとされている。荷主企業が物流効率化により主体的に関わることを求めており、対応が想定される企業にとっては、今もっともホットなトピックと言えるだろう。

荷主企業の一番の関心事となっているCLO設置義務にどう取り組むべきか、またその現状について、日本ロジスティクスシステム協会理事、JILS総合研究所所長であり、国際物流総合展事務局の事務局長を務める北條英氏に話を聞いた。

CLO設置義務化で荷主は物流危機を我がこととして行動変容できるか

▲国際物流総合展事務局長の北條英氏

CLOの選任義務が課される荷主企業は3000社程度と予想されており、本来なら対応が急がれるはずであるが、いまだ荷主企業においてCLOに関する取り組みが具体化しているようには見えない。今後の省令などを待って様子見といった状況もうかがえる。「多くの荷主企業にとって、長らく物流というのは他人事だったんじゃないか」と北條氏は言い、法制化にどう対応をしていいかわからない状況なのではと指摘する。多くの荷主が、物流課題は、3PLなど委託先が解決してくれるもの、あるいは物流部長が適切なコストでまとめるものといった感覚の「丸投げ」構造に陥り、配送に必要なリソースの確保や改善、調達や製造、販売との連携による適切な輸送計画や、効率化への投資、関係事業者との調整の最適化など、本来担うべき物流機能への無関心を招いているのではないだろうか。

運送業の自由競争を促した1990年の物流二法の改正は、一気に増えた運送事業者同士の荷物の奪い合いを招いてしまい、事業者、さらにはトラック運転手を疲弊させることになってしまった。ドライバーにとっては、事業者間の過当競争の原資に給与が充てられながら、一方で長時間の労働を強いられ、トラック運送業を魅力のないものに変えてしまったことが、24年問題の根っことなっている。荷主企業はこうした根本課題を「問題とすら思っていない」(北條氏)、とりあえず荷物だけ動いていればよいとばかりに、多重下請けなどの構造的問題や物流課題を丸投げし、改革への責任を負わなかったことが、いざCLO設置義務化を前にして、解決のためのノウハウが自社にないことが顕在化した状況だと言えるだろう。

(イメージ)

荷主企業にとって、物流課題対策は物流コストをいかに下げるかに終始し、波動対応など物流ならではの根本課題解決に取り組むこともなく、多重下請けなどで、どんどん下流に丸投げしていく構造を容認してしまったことが、本当に汗をかいてモノを運ぶ実運送事業者を苦しめる業界にしてしまった。売上高物流コスト比率は経営の重要な指標だが、そこから物流費が運転手の賃金に適正に反映される状況にあるかなど、物流維持の観点での精査・改善には至る指標として活用することも本来必要だったのだろう。

「そこから変えていく。荷主は物流の当事者、プレイヤーとしての意識変革、行動変容が重要」(北條氏)とし、実運送事業者とトラックドライバーが適正な収入を確保できるような産業構造への変革を、荷主も主体的に、荷主が我がこととして取り組むことが必要であり、そのためのCLO設置義務化なのである。

波動の対応に、運送事業が無理をして対応してきたのがこれまでの物流であった。北條氏は、AIによる需要予測、それに伴うリードタイムの変更など、荷主企業の取り組み次第で「無理して運ぶ」以外の選択肢も生まれると語る。また、小売業でも主婦をターゲットとした「特売」による集客戦略から、会社帰りの顧客をターゲットとした「everyday low price」への転換も、配送を平準化、波動を緩和する戦略と捉えることができる。

また、波動を相殺するような業態との連携も、荷主にできる取り組みである。北條氏は、繁閑のタイミングが異なる異業種と連携できれば、波動を平準化するような仕組みの構築もできるのではと、異業種連携やオールジャパンで物流危機時代に取るべき荷主の打ち手を提案し、CLOが主導して経営戦略として改革できる領域だと指摘する。

「成熟した産業社会であれば、本来こういう問題は民間企業の話し合い、サプライチェーンの話し合いで解決するべき」と、北條氏は語る。日本の物流業界に根付いた上下関係や商慣習がそのボトルネックとなり、ようやく国が主導することでの取り組みとなったのがこの度のCLO設置義務化の法改正だとも言える。

(イメージ)

ただ物流のみならず、ロジスティクスでの社会課題解決を担うCLO

今回、荷主企業に大きなインパクトを与えて意識付けの契機となった一方、そもそも「CLO=物流統括管理者」なのかなど、物流とロジスティクスの違いなどへの理解の差が、混乱を招いているのではとも指摘する。

物流とロジスティクスは別物であり、活動としての物流と、経営的戦略のロジスティクスでは、自ずと管理すべきKPIも異なってくる。物流とはあくまでもロジスティクスのための手段であり、「需要と供給の適正化を図る」「顧客満足度の向上」「社会的課題を解決する」という3つの目標に向けた取り組みであると北條氏は説明する。そう考えると、物流と商流、合わせた決断を経営的視点でできるのが、政府の想定するCLO、チーフ・ロジスティクス・オフィサー像であるが、現在示された法文だけでは、CLOが物流の責任者と混同されたり、矮小化されてしまう恐れがあり、今後、企業ごとのCLOレベルのズレが、選定での混乱、企業関連携などでの問題になり得るのではと指摘する。北條氏は、ロジスティクスの定義の普及とあわせて、「法律の条文だけじゃなく、政令で物流統括管理者はCLOであると指定すべきという議論も続けていく」と語る。

CLOに求められる資質とは?CLOは物流業界をどう変えていくのか?

各関係機関などからもCLOの定義や、ガイドラインなどの策定が進み、それらをもとにした議論が活性化することで、各企業ごとのCLO選任の動きも活性化していくのかも知れない。では、北條氏が求めるCLO像とは、どんな人材なのか。

CLOが事業戦略として社会課題解決を目指すのであれば、当然企業ごとにその取り組みも千差万別。ただ、「社会課題の解決」が必須のミッションであり、物流課題が取引環境などに根ざしていることなどから考えると、「利他」の考え方ができる人がCLOにふさわしいのではと北條氏は語る。「今当たり前だと思ってやっているジャスト・イン・タイムや翌日配送が、関係するステークホルダーにどう影響を及ぼすかという想像力や、それを検証する科学的なアプローチ、社会的なインテリジェンスみたいなものがCLOという役割を担う人々には求めたい」(北條氏)

需要と需給の最適化を図る。それによって顧客満足度を上げる。このロジスティクスの2つの目標において、CLO設置は間違いなく大きな役割を果たし、企業価値向上に役立つと北條氏は語る。物流だけではなく、環境問題、SDGs、雇用問題などの解決においてもCLOが先導する企業となることが、企業価値を上げ、持続的な成長の重要ファクターとして認識される社会になるのではないだろうか。さらに、そうした荷主企業が、どんなドライバーに運んでもらっているか、ドライバーはその会社の商品を運ぶためにどんな働き方をしたか、そこまでわかるようになればと、北條氏はあるべき未来の物流業界像を語る。

CLOは、物流コストだけではなく、適切な改善に向けた投資判断も担うこととなるはず。物流展では課題解決に向けた現実的な商談が、CLOを軸にして広がることも期待できる。

「ぜひ会場に足をお運びください。見るだけじゃなく、話を聞いたり、セミナーに出たり、セミナーでわからないことは名刺交換したり。そこから継続的な付き合いが始まる、やっぱり人もつながる展示会でありたい」(北條氏)