話題企画編集委員・永田利紀氏によるコラム連載第8弾がスタートします。物流の切り口から鋭く現代社会を捉える永田氏は、徹底した現場目線で物流業界の動向を捉えてきました。今回の連載テーマは「保管料」です。
第1章- 倉庫会社の二大厄介物
営業倉庫を営む者なら誰もが承知していることだが、荷主と駆け引きや交渉の具にしたくない2つの項目がある。まずは、”仕入風”ながらも実態としては立替払いである「運賃」。そしてもう1つは「保管料単価」とそれに掛け合わせる「請求面積」だ。
■ 2つの厄介な項目
なぜこの2つは厄介なのか。それはひとえに「儲かりもしないのに総額だけは大きい。そのうえ算出要素が単純で交渉材料になりやすい。
しかも似たような交渉が何度も繰り返されるだけでなく、その都度同じような説明に時間と手間がかかる」からだ。
さらに言えば、両項目とも物流会社の内部努力では荷主要求に応えることが不可能である。道理をひっこめて無理を通すなら、単項目のみ利益ゼロか赤字にして、他項目の利益を死守することで収支を下げてでも売り上げを維持するという禁じ手しかない。
■ 総合物流という看板
運賃についてはここで説明するまでもなく、もはや立て替えて差益商売できるような環境ではなくなっている。したがって、今や原価開示のうえ事務手数料をのせて請求するか、荷主と運送会社の直接契約に切り替えて、運賃請求を止めてしまった物流会社が多いのではないだろうか。差益を目論んだつもりが逆ザヤの憂き目にあってマイナス勘定を強いられたあげく、出血しながらの撤退だった会社も少なくなかったはずだ。
背に腹は代えられない実状がすっかり定着してしまった今では、「総合物流」という看板を薄墨にしたくなる経営者や営業担当は多いだろう。
■ 煩悩の値段
安い差益の代償は高くつく。例えば、単価について「10円の高い安い」を延々と交渉されたり、運送会社が作成した新タリフにスズメの涙にも足らぬほどの駄賃をのせて、右から左に差し出すだけなのに、まるで一世一代の大勝負さながらの体で額に汗するように説明したり説得したり。
にもかかわらず、他社提示とかいう発行年月日や宛名が塗りつぶされた運賃契約書のコピーを仰々しい素振りで突きつけられて、「おたくは差益をのせすぎなのではないか」と不本意な疑念をぶつけられたり、「運送会社との関係がよくないから高いのではないか」とか「ほかの倉庫会社ではもっと安いと聞いています」などの嫌味や恨み言を、うんざり顔で突き放すように言われたりする。
「やってられるか!」と思いはしても口に出すわけにもゆかず、「弊社としては最大の譲歩で単価提示しております。どうかご理解とご承認を」と唇噛んで頭を下げる。
こうしたことは、3PLや営業倉庫の営業担当者や管理職なら誰もが少なからず経験済みの話だし、EC専業の荷主が多ければ多いほど、茶飯事の出来事だったに違いない。
■ ひと思いに
とある中堅営業倉庫の営業統括役員から、こんな言葉を聞かされたことがある。
「運賃の立替払い禁止とか、運賃と倉庫賃料の再販禁止とか、法律でも条例でもなんでもいいからひと思いにやっちまってくれ、と何度心の中で毒づいたことか」
その当時の自身の想いと重なって、苦笑しつつもしんみりとしてしまい、その後しばらくは奇妙な後味が尾を引いて、たまらぬ気分になった。過去のいくつかの出来事を思い出したが、箱詰めしてふたを閉めて重石を置きたくなるような中身ばかりだ。そんな愚痴や嘆きの昔話は引き出しの奥にしまい込んで、次章に移りたい。
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