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アイランドシティ活性化、博多港エリアの物流過熱

2023年10月17日 (火)

話題2020年度の国勢調査において政令都市の中で人口増加数・増加率ともに1位となった福岡市。22年の企業誘致数でも過去最多を記録するなど、ますます巨大消費地、物流拠点としての価値を高めている。

CBREの調査では、19年から市内物流施設の空室率は0.0%という状況で推移、空室が発生してもすぐに埋まる状況が続くなど、その需要に対応できるだけの物流施設が常に不足してきた。大型物流施設が建設できるような大きな工場跡地自体が少ないこともあり、これまで小規模な倉庫を点在させて運用するなどで対応してきたという地域事情も影響している。熊本のTSMC進出による半導体需要の盛り上がり、さらにはEC(電子商取引)需要の増加などでますます高まる物流施設ニーズに応じて、ここ数年で九州自動車道沿いの近郊地にマルチテナント型の供給も増え、空室率もやや上昇気配とはいえ、絶対的な供給数はまだまだ少ない。

福岡市全域で見ると、今後も150万平方メートル程度の供給不足という見込みもあり、郊外の南北へ広がる形での用地取得、開発が続く。賃料相場も低い空室率を背景に上昇基調で、郊外の供給が続く状況で空室率がやや上がる時期も出てくると予想されるが、坪単価3000円台中盤とされる相場も穏やかな上昇に落ち着くと予想されている。

そんな状況下での、市下の物流業界における大きな話題といえば、やはりアイランドシティの動向であろう。

攻めの開発が奏功した、アイランドシティ整備事業

アイランドシティ整備事業は、博多港の機能強化、新しい産業の集積拠点の形成、快適な都市空間の形成、東部地域の交通体系の整備を目的として94年に着手された、総面積401.3ヘクタールとなる博多湾内の埋立地整備事業。物流面で注目すべきは、西半分209.5ヘクタールの「みなとづくりエリア」において、コンテナターミナルの整備や大規模物流施設の立地により港湾機能の強化が図られたことである。

アジアとの海の玄関口である博多港の重要性を先読みし、大型コンテナ船の対応や、港湾機能のデジタル機能化と合わせて進められた開発は、03年のコンテナターミナル供用開始にあわせて、物流施設用地の土地分譲を開始。相互運輸や海運大手エバーグリーンジャパンが進出したが、リーマンショックの影響でその後の民間投資が鈍化するなど、決して順風満帆と呼べる船出ではなかったという。

これに対して市では福岡市企業立地促進条例に基づいて大幅に交付金を拡充するなど、積極的な企業誘致策で対応したことが奏功。16年には青果市場「ベジフルスタジアム」が進出、市内の旧青果市場3施設を統合した商流と物流一体の国内最先端の市場として開場し、周囲で市場関連の分譲も進むなど、立地交付金拡充対象年度に一気に進出企業が増加した。21年3月に開通した都市高速道路(臨港道路アイランドシティ3号線)など道路インフラ整備も進められ、住宅など「まちづくりエリア」の全区画の分譲予定者決定に続いて、22年8月にはこの「みなとづくりエリア」の分譲区画の完売も発表された。

▲アイランドシティ全体図

港湾関連用地には、アスクル、東洋水産などの大手企業・商社が物流センターを構えるほか、山九、鈴与、上組、日本通運など運送、物流事業者の拠点も集まり、すでに8割以上の区画で稼働を開始。隣接する博多港アイランドシティターミナルが供用を開始した03年から19年間、同ターミナルの物流インフラ整備、ヤード拡張を経て、22年度の国際海上コンテナ取扱数を1.6倍の89万TEUまで押し上げることにも貢献している。

物流施設にとっての特等地、博多港エリアからの物流構築

現時点でアイランドシティ内でテナントを募集しているマルチテナント型施設としては、東京建物のT-LOGI福岡アイランドシティ(仮称)が24年2月での竣工を目指す。博多港エリア一帯に広げて見ても、20年に竣工したロジシティみなと香椎ノース(福岡地所)以来の賃貸物件となり、これまで、大型物流施設が供給されてもすぐに満床となる、まさにデベロッパー垂涎の立地での新規稼働だけに注目度も高い。12年以降の公募における分譲価格は1平方メートルあたり平均で16万円程度、一部区画では30万円を超える値になっており、12年時点では160億円の赤字と試算されていた事業収支も、予想を上回る分譲収入の上振れで150億円程度の黒字化につながったと公表されたことでも、同エリアの「特等地」としての価値を裏付ける。

今後も博多アイランドシティ特定目的会社が25年、溝江建設が28年、福岡地所グループは31年を目標にそれぞれ物流施設の建設を進める。すでに稼働している施設も含めて、市内主要地にこれだけの施設が集中することで、福岡起点のサプライチェーン構築のスタンダードも大きく変動するかも知れない。

▲東京レールゲートWEST(出所:JR貨物)

今後のアイランドシティの物流施設計画で注目されるものの1つが、JR貨物が開発を進めるレールゲートである。レールゲートはJR貨物が全国で開発を進める貨物ターミナル駅直結の大型マルチテナント型物流施設。すでに東京貨物ターミナル駅構内に東京レールゲートEASTとWEST、DPL札幌レールゲートが竣工し、今後、鉄道貨物との結節点となる物流施設として仙台、名古屋、大阪、そして福岡と、主要都市での開発を計画しており、いずれも鉄道モーダルシフト連携を見据えた施設機能でテナント獲得を目指す。エキナカ物流施設をコンセプトとするレールゲートだが、福岡においては福岡駅ターミナル用地が手狭なため、西日本鉄道と共同でアイランドシティの港湾関連用地を取得し、レールゲートの名を冠した物流施設として29年ごろの操業を目指す予定である。

海運では、商船三井フェリーとともに博多港拠点の内航RORO定期航路を運用する日本通運も、24年3月稼働の新倉庫を準備しており、ターミナル隣接の立地を生かしたより機動的な海上輸送の利便性向上に取り組むなど、鉄道、海上輸送の活用施策も広がりを見せる。

アイランドシティ内の分譲は終了したが、島内開発の余波は、博多港周辺全体の物流需要を喚起することにもなろう。もともと新規開発用地がないエリアだけに、既存施設の建て替えに踏み切ることで対応する事例も出てきた。住友倉庫の子会社、住友倉庫九州は、箱崎ふ頭の自社施設を解体、新倉庫の建設に踏み切る。博多港の眼前、福岡貨物ターミナル駅近接という格好の立地を生かし、旺盛な物流需要に応える大型施設として物流網の再編に寄与する計画だ。

▲福岡都市高速道路の高架下からのぞくアイランドシティ

まさに乾いた大地が水を吸い込むように、アイランドシティ開発を契機とした福岡物流シーンも急激に活性化しているのがわかる。必要だった場所に必要だった倉庫ができるといったことだけではなく、物流危機によって喚起されたモーダルシフト需要もまた、同地の変革を促しているのは間違いなく、博多港を起点・中継点としたサプライチェーン構築にも注目が集まる。

アイランドシティの中枢・博多港が担う物流危機対応

編集部では、アイランドシティの中枢である博多港の物流対策について、同港のポートセールスを管轄する福岡市港湾空港局の担当者に話を聞くことができた。

博多港はアジアのゲートウェイとして、世界41航路、月間216便運行の拠点(23年10月現在)、特に中国、東南アジア、韓国便を豊富に用意する。港湾振興部物流推進課で課長を務める執行謙一氏は、「博多港からの距離で比較すれば、大阪より釜山の方が近く、東京と上海はほぼ等距離、これこそが博多港の立地優位性です」と語る。ますます重要性を増すアジアの貿易拠点として極めて重要な拠点であることは言うまでもない。

さらに、国際ROROネットワークとして韓国航路が週7便、台湾・高雄向け週1便が運行し、釜山までは5.5時間で到着、博多と台湾間では同一シャーシによる国内でのRORO船同様の、海路と陸路をつなぐ運送が可能だ。さらに国内RORO船は、敦賀と結ぶ週6便(2023年度は週3便)が運行し、苫小牧航路へと接続する。九州と北海道をつなぐ海上輸送ルートであると同時に、敦賀経由の近畿・中部・北陸商圏への海上輸送路として活用されている。また、東京便も週6便運行され、首都商圏と九州との海上輸送における大動脈の役割も担う。

また、半径5キロメートル圏内に、各港湾ターミナルはもちろん、福岡空港、九州自動車道「福岡」IC、JR貨物福岡貨物ターミナル駅を収め、陸・海・空の輸送モードの結節点であることも博多港ターミナルの大きな利点である。RORO船活用など、多様な輸送モードでトラックに頼らない新しい運び方への対応、新しいサプライチェーン構築の起点ともなり、同港が持つ立地、機能のすべてが、物流危機対応における重要な要素となる。

福岡市港湾空港局は、「2024年問題対応での博多港活用」を掲げて、9月に開催された「国際物流総合展2023 第3回INNOVATION EXPO」にも出展した。「展示ブースまで足を運び、熱心にアンケートまで協力いただいた企業は600社におよび、主に荷主企業、運送会社、小売企業など2024年問題の解決策を熱心に考える方々とたくさんの意見交換ができました。追加募集していたトライアル事業でも、現場での問い合わせから具体化できる成果もありました」(執行氏)と、物流危機への関心の高まりを実感したという。

博多港ではまさに物流危機における海上輸送の活用を促進するため、「博多港物流トライアル推進事業」も実施。博多港を利用した新たな物流ルートの実証や、国際または国内定期航路を利用して物流改善を図るトライアル輸送を促進する。「これまでの事例として、博多港から関東工場までの陸送だった輸送を、東京航路RORO船の利用により、輸送コストの23%減、CO2排出量の75%削減を実現しております。韓国からのEC貨物輸送においては、韓国から関東の空港への空路輸送を、フェリー定期航路による福岡への輸送と鉄道による関東への輸送でつなぐ、シーアンドレイルの物流ルートに変更して、輸送コストで34%の削減に成功した事例もあります」(執行氏)

(クリックで拡大)

物流施設と物流インフラが一丸で取り組むべき改革へ

執行氏は、港を起点とした物流網構築に焦点があたる現状を、「2024年問題は一過性のものではなく、少子化、高齢化の進展につれてますます深刻化していく課題だと認識しています。来年4月に向けての一過性の対症療法ではなく、長期的な視点で物流モードを考え直す契機となっているのではないでしょうか」と分析する。

港湾機能と先進型物流拠点を一体運用できる、新しい機能を持った街づくりは、物流危機に多様な輸送モードの対応で後押しすることでも、今後のモデルケースともなり得る。日本と世界をつなぐゲートウェイとして、また九州経済の中心地としても、「物流を守り続けることはもちろん、さらにそれだけではなく、越境ECなど新しい貨物を積極的に取り入れて、新時代の運び方に対応していくことが重要」(執行氏)と言うとおり、アイランドシティ全物流関係者が、これからの物流危機において提言できること、果たすべき役割は大きい。

10月に政府が発表した「物流革新緊急パッケージ」(案)では、鉄道・内航港運へのモーダルシフトを10年で倍増するとの施策が打ち出され、国策としての後押しも含めた対策が取られると予想される。陸・海・空の輸送モードの結節点にあたる物流施設にも、多様な輸送モードとの連携をサポートするなど、物流の特等地だからこその積極的な改革への貢献が期待されている。

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