ロジスティクス日本貿易DX協会は6日、設立発表会を開催した。貿易現場に残る紙や電話でのやり取りやシステム間のデータ連携不足を解決する。業界横断でデータ標準化やルール策定を進める。官民連携で日本の貿易手続きのデジタル化を加速させる最大の狙いを持つ。
協会発足の背景と意義
日本貿易DX協会の代表理事を務めるShippio(シッピオ、東京都港区)の佐藤孝徳社長は、貿易現場の現状を説明した。当協会は2026年5月14日に設立準備委員会を発足し、3か月の準備期間を経て正式な発足を迎えた。
佐藤代表理事は「島国の日本にとって貿易は生活や社会経済の基盤だ。単なる事務手続きにとどまらず、国の皆のために仕組みを作らなければならない」と冒頭で使命感を語った。

▲日本貿易DX協会の佐藤孝徳代表理事
貿易の現場には荷主、フォワーダー、通関事業者、船会社、港湾、金融機関、行政機関など、非常に多くの関係者が関わる。同じ情報を複数の企業がそれぞれ異なる様式で入力し、確認や転記を繰り返す実態がある。
現場の実務はベテラン担当者の経験や属人的な判断に依存する。日本全体で人手不足や人材の流動性が高まる中、属人的な仕組みを改善する課題を抱える。
佐藤氏は、協会が解決したい3つの根本的課題を挙げた。
1つ目は利用者の継続性や相互接続への不安だ。導入したサービスが将来も機能するかの不安がある。公共のシステムと接続を確立する懸念も貿易プラットフォーム導入の障壁を作る。
2つ目は事業者間のデータ連携不足だ。デジタルサービスが増加する実態がある。しかしサービス同士がつながらなければ入力や確認作業は減らない。「利用するシステムが増え、かえって手間が増えたという声も聞く」と佐藤代表理事は直接の声を紹介した。
3つ目は政策提言を行う統一的な窓口の不在だ。政府との連携に向けた窓口機能を果たし、課題を解決していく方針を示す。
政府行政の貿易DX推進
経済産業省通商政策局貿易振興課の板橋洋平氏は、政府の視点から取り組みを説明した。同省は新興国や途上国で成長するグローバルサウスとの連携強化や、中堅中小企業の輸出支援を重点アジェンダに掲げる。貿易手続きのデジタル化は日本企業の海外展開を支える極めて重要な産業インフラに位置づける。

▲経済産業省通商政策局貿易振興課の板橋洋平氏
板橋氏は「金銭的、時間的コストの課題を解決し、新型コロナウイルス禍や中東情勢を背景とする有事の際のサプライチェーン体制を強化する」と力を込めた。日本の国力や輸出力の強化に直結するとの認識を示す。データ標準化に向け、国内だけでなく国際標準となる戦略作りを含めて協会を支援していく姿勢を見せた。
国土交通省港湾局参事官(技術監理・情報化)室の中川航志郎氏は、港湾物流手続きをデジタル化するデータプラットフォーム「サイバーポート」の取り組みを発表した。政府の日本成長戦略会議で設定した17の戦略分野に港湾ロジスティクス分野が含まれる。その政策パッケージにデジタル標準化に向けた共通ルールの構築を組み込む。

▲国土交通省港湾局参事官(技術監理・情報化)室の中川航志郎氏
サイバーポートは21年度から運用を開始し、現在1100社が登録する。35年度末にはNACCS(ナックス)を利用する全1万1000社との連携を目標に定める。中川氏は「ユーザーが現在使うプラットフォームを意識せず円滑なデータ連携を実現する。そのためにデジタル標準化に期待を寄せる」と語った。関係者間のデータの分断をなくし港湾の生産性向上につなげる意欲を示した。
データ標準化の取り組み
日本貿易関係手続簡易化協会の秋田潤理事はデータ標準化の歴史と反省点を語った。過去には国連主導で紙の書類や電子データ交換の標準化を進めた。しかし各社が独自のシステムを構築し、データ変換の手間や複数の専用端末を置く問題が発生した。

▲日本貿易DX協会の秋田潤理事
近年は意味を揃える共通化が国際的な主流だ。日本では既存システムとの接続や改修の恩恵が見えにくく、普及が進まなかったと技術者主導の過去を省みる。今後の標準化は民間サービスなどとの相互運用性の向上を第一に掲げる。
データ項目や接続ルールを協調領域として整備し、複数システムを無理なく連携して活用できる環境を作る。各社がAI(人工知能)活用などの付加価値で競争する環境を目指す。
4つの委員会による今後の展開
業界全体で協調すべき領域を明確にし、4つの委員会体制で事業を力強く推進する。トムソン・ロイターの森下馨氏は、標準化委員会と調査委員会の役割を説明した。

▲トムソン・ロイターの森下馨氏
標準化委員会は、貿易データの相互運用性に関するアーキテクチャや技術の標準化案を作成する。システム間の接続ルールを整備する。森下氏は「対象とする技術要素を細分化し、実装を支援する専門グループへ体制を発展させる視野を持つ」と言及した。
調査委員会は、幅広いアンケート調査などでリアルな現場の声を収集する。そのエビデンスを他の各委員会へフィードバックする役割を持つ。
日新の島田高幸理事は、普及委員会と政策提言委員会の活動内容を発表した。島田氏は自社のDX推進や通関物流ラボを担当し、現場視点で声を吸い上げる決意を示す。

▲日本貿易DX協会の島田高幸理事
普及委員会は、標準仕様の普及やDXの啓発を目的とする。現場の実務者が理解できるレポートの発行やセミナー開催を実施する。業界全体のリテラシー向上を後押しする。
政策提言委員会は、オブザーバーの財務省や経済産業省や国土交通省と緊密に連携を取る。実効性のある政策提言を実施する。単なる民間レベルの効率化にとどまらない。日本企業のサプライチェーン強靱化や経済安全保障につなげる計画だ。
今後の抱負
当誌は質疑応答で、今後の会員の広がりや想定する業種について質問を投げかけた。佐藤氏は「まずはデータの標準化やルール作りが実質的に重要になる。システムプロバイダーやプラットフォーム提供企業を中心に声がけを行う」と回答した。同時に実務と乖離した使いにくい仕組みを防ぐ。実際の事業を行う荷主や物流事業者や国の機関などにも参画を促す方針を示した。データ標準化の議論にはシステムプロバイダーを、実務面での活用や普及には物流の現場を持つ事業者を呼びかけていく。
具体的な目標やスケジュールについて、佐藤氏は今年度中に20社程度、3年以内に70社程度を集める目標を明らかにした。正会員をITサービスプロバイダー、準会員を荷主や物流事業者とする枠組みを想定する。
関係省庁への政策提言のタイミングにも言及した。年に1回まとめる形ではない。すでに走っている官民の議論と連携しながら随時ブリッジしていく役割を担う考えを示した。海外のカウンターパート組織に関する質問にも対応した。国連セファクトなどの国際的な標準化機関と連携を模索していく姿勢を見せた。
標準化のスピード感に関しては「雪だるま式にデータ項目を増やす最大公約数的な標準化ではない。最小公倍数的な必要最小限の標準化を目指す」と強調した。最低限必要なデータセットや意味定義を揃え、今年度内に標準化のロードマップを策定する目標を掲げる。
結びに、佐藤氏は今後の抱負を力強く語った。「当協会は特定の企業やサービスの利益を追求する団体ではない。日本の貿易全体にとって何が必要かを議論し、中立性を担保して貿易DXを進めていく」と熱意を見せた。各社が競争する領域と協調する領域を明確に切り分け、業界横断の取り組みを力強く牽引していく。

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