「物流人になる理由」第2回コラム連載

話題自社の業務コストを自社で設計することに異論はないと考えている。そして毎度のことながら「ならば」で始まる疑問を呈し続けてきた。

第3章- 今までと今

■ 報われない苦言

「自社の物流コストの計算はいかにして算出しているのですか」という問いに対しての答えは「自社独自の指数や事業予算から…」ともっともらしいが、その実は「対前年の売上予算に比例させて、変動対象の各項目には相応の修飾や加減を」が多い。

そのたびに「ではこのような前提条件で試算すればどうなりますか」と違う切り口で設問を投げかけそうになるのだが、きっと意地悪くやり込めようとする印象しか残らないだろう。それでは憎まれ役の甲斐なしとなってしまう。

■ なんとかなっている？

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ありがちで大問題なのは「それでも支障ない」という経営者の意識と本気の思い込みだ。もちろん予実が合致、もしくは許容できる差異で終わっているなら、口をはさむ余地などないかもしれない。しかし「本当にそれでよいと考えていますか」が私の次の質問となる。

解答を導く式は「前年比」がもっぱらで、同業他社・異業種の物流コストは自社の前年数値からしか推測できない。その評価も対自社で、数値は対前年で考察したものだ。「本当にそれでいいのですか」という問いは無用の繰り返しなのだろうか。

■ 設計とはコスト計算まで

建築設計同様に、物流業務設計にも工数と単価設定と”ひろい”が必須となる。ただし、大規模建設のように、各分野の専門家が各々に図面を読み込んで工数とコスト計算の割り付けを行うほどの大掛かりな段取りまでは要求されない。設計趣旨に忠実な業務フローの作成、各工程別の詳細フローの補足添付、工数別処理時間の試算、各工程要員の人件費や備品・資材を含む業務コストの算定と積算――そんな手順で物流コストは試算される。

したがって、まずは荷の種類や入荷の形態・荷姿・入荷手順に係る約束事や、保管に関する制限や特記事項の有無、出荷データの分析によるロケーション設計と什器類の選定、ピッキング動線と梱包ラインの接続・集荷時間別の出荷データ選別・再集計――などを机上でシミュレーションし、最適なWMSを選定することで基本設計が終わる。これぐらいは物流専門職であれば誰でもこなす内容だ。

■ 答えよりも式

企業物流の数値算定や品質測定において、答えよりも式が重要なことは明白なのだが、それを実践できている企業は少ない。「自社の公式」の有無は、委託や内製といった形態以前の基礎条件を問われている。企業経営において答えの小さな誤りは大きな問題ではない。結果主義と正解主義はまったく別物だ。正解を導くための式が間違っていることは、答えにあたる結果が常に信用できない状態にあることと同義だ。

「数値の間違いは単なるケガだが、式の間違いは重篤な病だ」という主張に頷く経営者が増えることを願っている。

―第3回（10月19日公開予定）に続く