「物流人になる理由」第3回コラム連載

話題この10年余りを振り返って、「物流業界は本当に良くなったのか」と首を傾げたり、虚空を眺めながら考えたりすることがある。機械化やシステムの進化による恩恵を疑ってはいないが、どこかすっきりしない。その「どこか」とは何なのだろう。

第4章- 大切なモノ

■ 最低賃金と平均賃金

最低賃金上昇と平均賃金低下という皮肉で残酷な現状は、統計母数となる大企業の賃金事情とは別に存在する。その大企業正社員の高賃金水準は平均賃金の低下という経済政策によって支えられてきた。派遣や下請業者における非正規労働者の増加は、伸び悩む企業売上の救いとして総原価抑制に抜群の効果をもたらし、営業利益の「好調部分」に置き換わってきた。製造や運輸・倉庫業界などはその典型であり、コロナ禍によって職を失うもしくは労働制限の憂き目にあっている人々が多いのは政策が生んだ当然の現象だ。

■ お金の色

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「金に色はついていない」は使い古された言葉だが、利益には色がついているはずだ。同じ利益額でもそこに至る方法や活動や行動の結果として得た損益に「色」ともいえる評価や過程の考察はついてまわる。企業利益は商材やサービスの価値に対する顧客評価の結論――それは誰もが心得ている共通認識だ。ならば昨今の「好調・堅調」を謳う大企業を主とする一部政商たちの企業損益は政策主導の人件費低減効果の産物としか読み取れない。直接的か間接的かは別としてだ。

もし脆弱な雇用基盤を逆手に取った、多くの人間をいじめる施策なのだとしたら、その報いを遠からず受ける事態になることは間違いないだろう。それは歴史を読めば瞭然だ。

■ 失われたもの

今一度この10年余りの物流業界を俯瞰してみれば、誰もが思うことがあるはずだ。それはあきらかに低下している現場人員の生産性と創造性にほかならない。

効率や利便を生産性や創意工夫に置き換えている事例やPJは数多いが、失ったものを付記する者は少ない。機械やシステムを利用して、何らかの合理性や即効性を追求することに異存ないが、その裏側で誰の目にも付かぬように後ろ手でこっそりと捨て去ってしまったり、無言のまま諦めてしまったりした「大切なモノ」はなかったのだろうか。

■ 備えと知恵

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属人業務排除、人依存からの脱却、雇用の不安定化や寡少化への対策――いずれも現状認識が正しく、将来が見通せている慧眼者や洞察力に富んだ人々の言葉とされているし、その個々の具体策についてはほとんどが素晴らしいと思っている。しかし失われた大切なモノを過去の遺物・不要物としてはならないはずだ。

自動車が故障したり道路が不通になったりしたとき、我々は歩いたり人力の運搬具でモノや人を運ぶ。鞄や袋にいれたものを背負ったり肩や手に提げたりする。その時に必要なものは健康な身体と冷静な判断力と大きな仕掛けや動力を必要としない技術や作業方法だ。脚力腕力が健全であれば、有事の際でも行動ができるし、高齢者や乳幼児、身体障がい者やけが人、病床にある者を数人で介助しつつ移動することも可能だ。交通手段や利器の発達の恩恵を享受しながらも、肉体の健全性や作業の備えや知恵を忘れてはならない。現象への対策や手段は目的ではない。それは言わずもがなだと思う。

―第4回（10月26日公開予定）に続く