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「保管料商売はやめました」第6回コラム連載

2020年12月21日 (月)

話題近年の多彩な資本による倉庫物件への投資については、各メディアで数多く取り上げられているし、その論調はまさに「今の時代を象徴する」といったニュアンスに満ちている。しかし、10年以上前から物流業界に身を置いてきた者なら、何も新鮮さを感じない中身であり、過去と異なるのは金主の顔ぶれだけだと思うだろう。

「保管料商売はやめました」第5回コラム連載(https://www.logi-today.com/411752

第6章- 投資対象としての倉庫

■ サブリースの時代

(イメージ画像)

21世紀を迎えた後も、しばらくは大きな勢力として倉庫業界で存在感を示していた業種のひとつに「サブリース」がある。平たく言えば転貸、つまり「また貸し業」。広大な土地の有効活用を求める地主たちと密接な関係を作り上げ、倉庫建屋を建設する段取りのすべてを担い、完成した倉庫を一括借上げした上で倉庫会社や事業会社に転貸して差益を得るという、不動産業の一種だ。

「〇〇倉庫」などと倉庫業の名称を名乗る会社も珍しくなく、実際に倉庫業が転貸業に進出して、本業比率が逆転していたケースも多々あった。リーマンショックやその後に恒常化した床余りの余波を受けて、差益幅が圧縮の一途となったために、撤退や廃業した事業者も多い。サブリースの案件の流通量こそ、倉庫は投資対象として一定の評価を得てきた証左といえるし、その本質は今も変わっていない。

■ プレイヤーの交代

倉庫への用地供給者や投資者は、かつて多くを占めた農業などの地主たちから、広大な遊休地を持つ重厚長大産業や山間部を切り拓いて土地を開発する不動産事業者、そして巨大運用資金を世界中に展開する投資ファンドへと移り変わった。それを仕入れて転貸する”サブリース屋”に取って代わったのが、3PL事業者だ。

サブリース屋と違うのは、保管料差益だけでなく、運送や荷役からも収益を得ることが可能であることと、その技術を持っていることだろう。旺盛な倉庫建設に乗じて、企業の物流ニーズを丸ごと吸い上げる大手3PL事業者の好調ぶりは、もはや説明の要がない。

EC興隆によって成長を続ける事業者の倉庫需要を取り込んだ物流企業の多くは、増収増益の堅調な実績を重ねている。最近の流行りは、「外資系投資ファンド×国内大手3PL」という組み合わせだ。積極的な広報と営業活動が奏功し、好調な業績推移を続けているし、その勢いは当面衰えそうもないと思われる。

■ 儲け方のメリハリ

3PLに代表される大手物流会社に共通するのは、項目別の収支勘定をアンバランスにしてでも、請求総額からの利益確保を優先することだ。保管料差益の抑制によって、荷主に伝わりやすい割安感を堅持することなどはその典型といえよう。

(イメージ画像)

荷役に応じた目論見どおりの業務費用の請求が叶うなら、たいして儲けにならない上に原価が世間に晒されている保管料は、本来の差益分を販促費や協賛費として荷主に還元するぐらいのつもりでいたほうが手堅いし、価格交渉の抑止効果も期待できる。私が3PLの営業担当なら迷いなく同じようにするだろうし、他業種では初歩的な商売上のメリハリとして常用されている。

営業収支を管理・分析する際には、保管料項目を合算から外して利益計算したほうが解りやすいかもしれない。変動せず、低利益率にもかかわらず、いたずらに分母を大きくする類の数字は、可能な限り割愛するほうが検証や分析には好適なはずだ。

■ 収益項目からの削除

賃料収入によって、建築計画時に予定した利回りを得ることで満願の投資ファンド。多大な請求総額を構成する項目別の凹凸をやりくりして均してみれば、それなりの利益を確保できる3PL事業者。紆余曲折を経て、徐々に裸原価に近接してゆく保管料相場の動向。

運賃差益からの撤退と同様に、「保管料収益の放棄」もしくは「収益項目からの削除」を選択する物流業者が増えることは時代の流れとして加速するに違いない。さらには、前章で述べたとおり、「統計対象外」として実情が相場統計化されない中古優良物件の流通余剰が、新設倉庫の成約賃料平均を下方に引きずるだけの影響力を持つに違いないと予測している。

―第7回(12月28日公開予定)に続く


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