ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

「保管料商売はやめました」第7回コラム連載

2020年12月25日 (金)

話題高品質で高機能な大型倉庫の増加が物流業界の成熟と進化に寄与することは疑いのないところだ。使用するすべての企業にとって、秀でた業務環境や広大な床面積、天井高、車付けの利便性、キャパシティの余裕などは歓迎すべき利点の連続だろう。現場責任者は、そびえたつ巨大施設を前に、武者震いと身の引締まる想いを抱いて新拠点に着任するかもしれない。

「保管料商売はやめました」第6回コラム連載(https://www.logi-today.com/411753

第7章- 余剰と淘汰の果てに

■ たし算とひき算

(イメージ画像)

棟数は少ないが、床面積の総和が近隣の物流倉庫数棟に匹敵する新倉庫が次々に着工し、順番に竣工している。かつては港湾部に点在するのみだった希少な超大型倉庫が、内陸部のあちこちで異様ともいえる着工数と竣工スピードを維持しながら量産されている。

確かに新築の大型物件は内陸部に不足していたので、そういう点では需給均衡化への途中と解せる。しかし、現在の国内物流総量に必要な倉庫面積という試算を施せば、竣工予定分まで含めた新築倉庫の総量は過半以上が余剰に属するはずだ。もちろん単純なたし算とひき算のみの理屈なのだが、国内には今後何十年間も使用に支障ない既存倉庫が存在するからだ。

■ 流行りの論調

(イメージ画像)

「EC興隆による旺盛な倉庫需要」は欧米でも国内でも主流な論調だ。たしかにECの物流業務は、他業態よりも保管効率が下がり、荷役についても脚数と手数が増える。つまり、より大きな床面積と多くの労働力が必要になる。

しかし、だからといって既存の大型・中型倉庫から移転もしくは集約先の選択肢から除外する必要は必ずしもないはずだ。そもそもEC専業者向けの物流業務なら、大半の新設巨大倉庫は天井高が無駄になる。棚やパレットを使った運用がほとんどを占めるのだから、その天井高は3.5メートルもあれば十分だし、空調設備が必要ならなおのことだ。したがって、「ECの増加=巨大倉庫の需要増」とは一概にいえないことになる。事実そのように考えて倉庫を選定する事業者は多い。

■ 適床適社

ご承知のとおり、国内企業の大多数は中小零細企業だ。したがって、業務を行う物流倉庫も各社の仕事量に従って選定される。大規模倉庫を一棟丸ごと必要とする中小企業など稀どころか皆無と言って支障ないだろうし、ほとんどの中小零細企業は、大型新築倉庫の募集概要にある賃貸最少区画すら持て余すだろう。つまり、床は荷主企業を選び、逆もまた同じなのだ。

だとしたら、ごく一部の企業需要を満たす限られた倉庫供給の需給バランスが生んだ建値もしくは成約値の平均を我々は相場と呼んで、何かと引き合いに出したり指標や基準としたりしていることになるわけだが、はたして一般的と受け取っていいのだろうか。

それは大部分の中小企業にとって、実感からかけ離れた物語のようであり、真に受けて消沈しないためには、少数向けと大多数向けそれぞれに存在する相場の実態を、それなりに意訳して、広報する必要がありそうだ。一般的とは、大多数が実感できる実態に基づく言葉でなければならぬし、報道や著述に携わる者は、統計数値の切り取りや偏向を排除したうえで広く報せる義務があるはずだ。

■ 倉庫として生まれたが

私見だが、近年完成した、もしくは完成予定である大型倉庫の全床を完全に埋めるだけの荷主数(使いこなせる・使うにふさわしい業務内容と仕事量を有する企業数)は存在しないはずだし、今現在の適格事業者たちも必要床面積を漸減させてゆくだろう。

(イメージ画像)

従って、年々各地で空き床が生じ、おそらく倉庫としての用途以外に転用されるのではないかと予想している。ちなみに現在でも新築倉庫の一部が倉庫以外の用途に利用されている事例はいくつもある。老朽化した小規模倉庫が倉庫業から引退後の余生を過ごすが如く、室内テニス場や屋根付きのフットサル場、リサイクルショップや自動車修理工場として再利用される事例と同質の現象が、巨大な真新しい物流倉庫でも再現されると考えている。

それは我が国ではまだまだ伸びしろのあるリクリエーションやリサイクル・リユース市場の実需とあいまって、堅調な伸びを示すに違いない。「老朽化した工場の代替」「全天候型の高齢者や幼児向けの運動施設」「非常食や被災時必要物品の貯蔵場所と災害避難所として指定を受けた、自治体借り上げの日貸しや時間貸しイベントスペース」など、想像は尽きない。

「そんな好き勝手の言いたい放題でよければ、私もいくつか案がある」なんていう世間での拡がりが少しでも見込めるなら、こんな拙文でも多少は報われること間違いない。(本編了)

―第8回(2021年1月4日公開予定)に続く


永田利紀氏の寄稿・コラム連載記事
■連載
コハイのあした(連載9回)
https://www.logi-today.com/361316
BCMは地域の方舟(連載3回)
https://www.logi-today.com/369319
駅からのみち(連載2回)
https://www.logi-today.com/373960
日本製の物流プラットフォーム(連載10回)
https://www.logi-today.com/376649
もしも自動運転が(連載5回)
https://www.logi-today.com/381562
あなたは買えません(連載5回)
https://www.logi-today.com/384920
物流人になる理由 (連載6回)
https://www.logi-today.com/400511
保管料商売はやめました(連載中)
https://www.logi-today.com/408179
■時事コラム
“腕におぼえあり”ならば物流業界へ
https://www.logi-today.com/356711
-提言-国のトラック標準運賃案、書式統一に踏み込め
https://www.logi-today.com/374276
物流業界に衝撃、一石”多鳥”のタクシー配送
https://www.logi-today.com/376129
好調決算支える「運賃値上げ」が意味すること
https://www.logi-today.com/377837
ヤマトのDM便委託は「伏線回収」の始まりか
https://www.logi-today.com/401241
コロナ発生時の初動、天災が人災と化すことを危惧
https://www.logi-today.com/406463
越境ECは死語になるか、菜鳥網絡日本参入の意味
https://www.logi-today.com/407525
タクシー配送、まずは規制緩和へのロードマップを
https://www.logi-today.com/409146
■取材レポート
業界の“風雲児”MKタクシーに聞く「タク配」の可能性
https://www.logi-today.com/380181
その仕事、港湾でもできますよ -兵機海運取材レポート-(連載3回)
https://www.logi-today.com/386662