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「うちの倉庫はダメだよな」第4回コラム連載

2021年2月22日 (月)

話題企画編集委員・永田利紀氏のコラム連載「うちの倉庫はダメだよな」の第4回を掲載します。ある物流部門の現場責任者「A課長」の物語を通じ、「物流現場を苦しめる根深い問題」に迫ります。

「うちの倉庫はダメだよな」第3回コラム連載
https://www.logi-today.com/419988

■ 商品部からの指示(2)

さらに物流現場を苦しめている根深い問題がある。それは仕入ロットや製品別入数の固定化だ。

(イメージ画像)

記録を遡れる限り、定番品の中で最多割合を占める部品類の30000を超えるSKUについては、20年前から今に至るまで一箱当たりの入数や梱包内の数量は変わっていない。そして品番品名やバーコードの表示は外装に一か所あるだけだ。つまり文庫本からトランプぐらいの縦横で数センチ程度の高さの小箱に100とか500、モノによっては1000単位の入数で指先程度の小さな部品が入っていたり、何種類かの長さ別にプレカットされた銅線やビニールケーブル、ワイヤーなどが円形にまいた状態で結束され、裸のまま30㎝四方の厚手ビニールの平袋に入数10とか20で詰め込まれている。小さな部品を1個だけ箱や袋から取り出して別場所に置いてしまえば、それがどのSKUのモノなのかは一目瞭然とはいかなくなる。

通常入荷は支障なくこなせるが、問題なのは梱包時の誤ピッキング検出と誤ピック判明後の元ロケへの戻し、それから日々の返品再入荷だ。誤出荷や在庫差異はほぼこの作業が原因となって発生する。特に「返品再入荷や誤ピック品の戻し作業」時のミス防止は最大の難所となっているのだが、最も作業量が多いという重ねての不利がある。

「納めたのち、顧客都合で別サイズや別仕様の製品と交換」は日常的に発生する。バラ数をPP袋に入れて納品したものが、ひどい場合には裸バラ状態や無記名の別箱や封筒入れで返ってくることなど茶飯事だし、その際に数が足らなかったり、なぜか増えていたり、複数品番の混入や他社製品まで混ざっていることも珍しいハナシではない。

返品時の段階ですでに在庫差異が起こっているのだが、そこで一個13円のワッシャーの補償を求める営業担当者などいない。「出荷時に不足していたのでは?」という逆ねじカウンターが顧客から飛んでくるのは目に見えているし、その言葉は営業担当者に直接投げかけられる。

(イメージ画像)

たとえば上記の13円のワッシャーが、50個セットでPPの小袋にJANから品名品番、入数などの情報が印刷されたパッケージヘッダーでとじられているならどうだろう。少なくても開封したのちの扱いと顧客側の「開けちゃったけど、返品交換してもらえないだろうか」という意識を持ったゆえの言葉や文面につながる可能性は大だし、返品交換の際には元の入数から欠けていないか否かの確認ぐらいはするようになるかもしれない。全部が全部解決できないにしても、現状の「返品交換はあたりまえ。その際の多少の誤差は次の発注で埋め合わせるから」という馴合いが生む典型的なだらしなさや、恒常的なトラブルやミスの抑止効果は期待できる。

また、庫内業務としても、ヘッダー部や出荷単位である小箱に印字されているバーコードをスキャンできるので、業務精度の維持は難しいものでなくなる。製造現場のライン上で封入とヘッダー綴じや箱入れ・袋入れが完了している場合、その入数精度はほぼ100%となるのは国内メーカーの強みだ。万一間違いが発生したなら、その時の生産ロットすべてが間違いとなっているはずだし、出荷前の抜き取り検品で必ず引っ掛かる。その正確さにはコストがかかることを誰もが理解しているに違いない。しかしながら、いざ「誰が負担するのか」のハナシとなれば風向きは一変するのが常だ。

(イメージ画像)

業界大手の各企業では、歩留まりの悪化を吸収してでも小分けパッケージ化の導入を進めているし、EC販路ならほぼすべてがそうなっている。単アイテム、単品での原価付帯コストの増加は販促費の置き換えと捉え、顧客維持や新規増加と購入回数や関連品目の追加購入の増益で吸収し、総利益を維持していると聞く。市場動向に反応して、他社が環境整備と投資を行っていることはうらやましい限りだが、わが社ではそれを知りながらも踏み切る様子などない。

利は元にありというが、そのすべての利はお得意様からいただく。その大切なお客様に誤出荷の迷惑をかけることは自滅への道。ということは社内全員が理解しているが、原因追求と解決への方策を練る思考回路は常に決まり切っていて、現状を疑ったり、変えたほうがいいのでは?という気配は皆無だ。

顧客便宜のために日夜努力を欠かさない営業部。仕入れコスト抑制のために工夫と交渉に明け暮れる商品部。

にもかかわらず、誤出荷と在庫差異を是正できないまま、顧客クレームへの対応で営業部に足労をかけ、商品部の仕入努力による虎の子の利益を二度手間という追加コストでマイナスにしてしまうことの絶えない物流部。

これが部長会や経営会議での意見と認識の要約なのだとか。「結果には原因がある」ということを順序だてて説明させてほしい。しかし、それは私の今の立場では許されることではないし、理解して代弁する上席はいない。

―第5回(3月1日公開予定)に続く


永田利紀氏の寄稿・コラム連載記事
■連載
コハイのあした(連載9回)
https://www.logi-today.com/361316
BCMは地域の方舟(連載3回)
https://www.logi-today.com/369319
駅からのみち(連載2回)
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日本製の物流プラットフォーム(連載10回)
https://www.logi-today.com/376649
もしも自動運転が(連載5回)
https://www.logi-today.com/381562
あなたは買えません(連載5回)
https://www.logi-today.com/384920
物流人になる理由 (連載6回)
https://www.logi-today.com/400511
保管料商売はやめました(連載8回)
https://www.logi-today.com/408179
■時事コラム
“腕におぼえあり”ならば物流業界へ
https://www.logi-today.com/356711
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好調決算支える「運賃値上げ」が意味すること
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ヤマトのDM便委託は「伏線回収」の始まりか
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越境ECは死語になるか、菜鳥網絡日本参入の意味
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タクシー配送、まずは規制緩和へのロードマップを
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業界の“風雲児”MKタクシーに聞く「タク配」の可能性
https://www.logi-today.com/380181
その仕事、港湾でもできますよ -兵機海運取材レポート-(連載3回)
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