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「うちの倉庫はダメだよな」第1回コラム連載

2021年2月1日 (月)

話題企画編集委員・永田利紀氏によるコラム連載第9弾がスタートします。物流の切り口から鋭く現代社会を捉える永田氏は、徹底した現場目線で物流業界の動向を捉えてきました。今回はある物語を通じて物流現場で起こる諸問題の本質を浮き彫りにします。

■うちの倉庫のダメだよな

物流業務はクレーム業務と言い換えてもよいほど、何らかのミスが付いてまとう。「今月はノーミス・ノークレームだった」なんていう言葉を吐ける倉庫会社や自社物流部門はめったにない。というより「ほんとうは」皆無に近いだろう。

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もちろんだが、どこまでをミスやクレームと捉えるかは企業やその内部者によってまちまちだし、厳密なルール規定があっても、解釈や報告の仕方次第では事態の測定に差異が発生する。ある倉庫では「今月のミス・トラブルは3件」だが、別会社の倉庫では同種同内容であっても「今月はノーミス」となることなど珍しくもない。

こうなると経営の感覚や意識の問題としか表現できそうもないが、顧客側の反応次第でミスやトラブルはカウントされるか否かが決まるという傾向も相当比率を占める。

「お客様に詫びてなだめて、毎度なんとか収めている。もちろんいろいろ言われはするが」――は、営業勝ちの企業にありがちな理屈だが、サイレントクレームとして確実に蓄積・増幅され、そのマイナスカウントが積み上がって、水面から顔を出す時が「取引停止の通告日」という事例も数多い。

何度申し入れても修正や是正がなされない場合、往々にして見切りを付けられてしまうことは当然であるし、その時になって慌てて経営が事態収拾に乗り出しても時すでに遅しだ。

先方に対する「突然のことで驚いています」というエライお方の間の抜けた言葉は虚しい。「ぜんぜん突然でもなければ、驚いていること自体に唖然としてしまう。今までの経緯からしてこうなって当然ではないか。今さら何を言っているのか」という相手方の内心にうずまく憤慨まじりの辟易は伏せられたまま、大人のやり取りに終始してひとつの区切りを迎える。

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顧客が何の理由なく唐突に「取引停止」を言い出して、特段の説明もないまま取り付く島もない。結果として「しかしまぁなんとも…おかしな客だな」のような見当違い甚だしい思考回路のまま、被害者であるはずの相手を加害者であるかのようにして事件の終わりとする。

そんな事例には嫌というほど遭遇してきたし、伝聞した件数まで数えたらきりがないほどだ。営業の腕力で新規獲得は多いが、万年似たような業績が続く企業にありがちな傾向でもある。物流業務に限らず内省する視点がずれているのか、いつまでも改まらない。

一方で、倉庫内作業を生業とする物流会社については、ミス報告にまつわるお詫びやクレーム対応も仕事のうちであることは言うまでもないことだ。「仕事のうち」とは、必ずしもこちらのミスや不備ばかりとは言えない場面でも、先に折れて詫びて責任の所在を固定することだ。そのうえで、事態の落着と再発防止のお約束手順を踏んで区切りとする、というお決まりの顛末は誰しもが見聞きしてきたことだと思う。

公明正大で清廉潔白が必ずしも是々非々と評されない場面は少なくないが、その時のその関係者は全員が暗黙の看過で「ちょっと待った」と声を上げない。大きな異動や組織改編の後、次の「関係者全員」が「なんでこんなことをやっていたのだ?」と未開未踏の地で大発見をして驚きながら憤る、、、という迫真の演技と評されて不思議ない本気の茶番は吉本新喜劇よりもはるかに長い歴史があるのだ。

しかし、自社倉庫で物流業務を担当する部門や関連会社の担当者にとっては、必ずしもミスやクレームに対して無条件の詫びや即時対応を是とはできないことが多い。純粋に物流現場でのミスなのか否かが微妙な場合、社内の力関係ともいえる暗黙の部門優劣が作用し、責任の所在というババ抜きの最後に残るのは物流部門になることが多い。

(イメージ画像)

誰かが責任を取らねばならないのだから「犯人」を特定しなければならない。奉行である事業責任者はその真偽やヒアリングもそこそこに「顛末書」や「始末書」という名の調書に書かれた物流部門の自白と状況証拠、物的証拠としての現場ミスの具体、被害者である顧客の反応と陳謝を含む自社の対処を目通しの後、確認・承認して一件落着とする。

多くは概略の報告とその内容をなぞっただけの書類が、毎度のクレームやミスの全容となる。報告書の前提条件や作文の始まりの場面設定に疑いを持つ経営層・執行役の統括者は寡少だ。そこを疑わなければ、よく書けている(書きなれている)起承転結の物語をすらすら読み終わってしまう。

ここからはある企業の物流部門の現場責任者であるA課長の独り言を書いてみたい。あくまでも仮想のたとえ話であり、自身の経験や横目で視てきた実例の本質的な部分だけを取り出してデフォルメしたり入れ替えたりの加工を施したエピソードだ。

いくつかの象徴的な場面を活かして書いているが、実在する企業や個人とは一切関係ない旨、予めお断りしておく。なんだかドラマや映画のエンドクレジットみたいだぁ…とニヤついている場合ではない。けっこう長いハナシになりそうなのだ。

―第2回(https://www.logi-today.com/419117)に続く


永田利紀氏の寄稿・コラム連載記事
■連載
コハイのあした(連載9回)
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